前述したように、差別文書が配られたのは「神道政治連盟国会議員懇談会」の会合だが、「神道政治連盟国会議員懇談会」は神社本庁の政治団体「神道政治連盟」の理念に賛同する議員連盟で、「神道政治連盟」は同性婚や夫婦別姓が「伝統的な家族の在り方の崩壊に繋がりかねない」として一貫して反対しつづけている。この「神道政治連盟国会議員懇談会」の会長を務めているのが、ほかならぬ安倍元首相。差別冊子が配布された日の会合にも安倍元首相は出席しており、議員らに向けて挨拶する模様がTBSのニュース番組でも放送されている。
そして、安倍元首相といえば、首相在任中の2019年におこなわれた日本記者クラブでの党首討論会でも「LGBTの法的な権利を与えることを認める人は挙手を」という質問で手を挙げなかったが、そればかりか、首相退任後の2021年には同性婚などを敵視している統一教会系の団体が開催したイベントに送ったビデオメッセージのなかで「家庭は社会の自然かつ基礎的集団単位としての普遍的価値を持っている」とし、同性婚や夫婦別姓を求める動きを「偏った価値観を社会革命運動として展開する動きに警戒を」などと攻撃するスピーチをおこなった。また、同じく昨年に超党派の議連で合意された「LGBT理解増進法案」についても、安倍氏は「これは闘争だ」と言い、〈(議連がまとめた修正案を)絶対に通すなと総務会役員に直接、攻勢をかけた〉と報じられている(「AERA」2021年6月21日号/朝日新聞出版)。
そもそも「LGBT理解増進法案」は当初、野党は行政や企業などにおける差別的な取り扱いを禁止する「LGBT差別解消法」を打ち出したのだが、自民党は努力義務でしかない「理解増進法案」にとどまり、挙げ句、自民党内の会合では“安倍チルドレン”でネトウヨ議員の簗和生・衆院議員が「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」などと差別発言をおこない問題に。これほどの直球差別発言が繰り広げられたというのに、それでも自民党は簗議員に処分を下すこともなく、さらには法案自体を店晒しにしてしまった。つまり、結局、安倍元首相の圧力のもと、ヘイトスピーチを撒き散らかしただけになってしまったのだ。
「伝統的な家族観が崩れる」などと振りかざし、個人として尊重されるべき性的マイノリティや女性の権利を認めようとせず、差別を助長させる言説を垂れ流す──。ようするに、自民党内での安倍元首相の影響力が、性的マイノリティへの差別をなくすどころか、差別を煽る体質を蔓延させているのだ。
しかも、今回の参院選では、一見するとこうした差別とは無縁そうに見えても、差別に加担しかねない候補者が自民党には山ほどいる。事実、東京選挙区から出馬している元おニャン子クラブの生稲晃子氏は、同性婚には明確に「反対」だと表明。ちなみに本サイトでも既報のとおり、生稲氏を担ぎ出したのは、自民都連会長を務める萩生田光一・経産相と世耕弘成・自民参院幹事長という安倍元首相の側近連中。安倍派中堅も「安倍、世耕両氏に恥をかかせるわけにはいかない。安倍派は一丸となって生稲氏をやる」(毎日新聞4月29日付)と話しているとおり、公示日の生稲氏の街頭演説に安倍氏が直々に駆けつける力の入れようだ。
政権与党の為政者が差別発言をおこなうことは、公的にその差別は肯定されるものとして捉えられ、差別をより強く助長・扇動する。また、選挙運動にかこつけて候補者が公然と差別的言辞を垂れ流すのは「表現の自由」を悪用した“選挙ヘイト”であり、けっして許されない行為である。今回の参院選は、こうして差別をまかり通らせる極右、安倍派の人物を国会からシャットアウトするための選挙でもあるのだ。
(編集部)
最終更新:2022.07.04 11:01