そもそも、岸田首相は安保法制が成立した直後の2015年秋におこなわれた宏池会の研修会で「当面、憲法9条を変えることは考えない。これが私たちの立場」と発言したが、この発言が報じられると、安倍元首相は激怒。そこからは一転して安倍元首相の顔色を伺ったような発言を繰り返すようになっていた。そして、ついに安倍元首相を後ろ盾にして総理に成り上がったいま、安倍元首相の意向を蹴ることはけっしてできない。
実際、「安倍元首相の代理人」として岸田政権の政策を動かしている高市早苗政調会長は、岸田首相のインタビュー記事が掲載されたのと同じ「月刊Hanada」に登場し、櫻井よしこ氏と対談。櫻井氏が「いまの日本国憲法は、どこを読んでも「ああ、日本人だな」と思うところがありません」と振ると、高市氏は「ありませんし、もう時代に追いついていません」と同意を示すと、高市氏は憲法12条に定められた「公共の福祉」や22条の「移動の自由」、14条の「法の下の平等」などを挙げて疑問視。岸田首相が改憲4項目を語るにとどめていたのに対し、人権の制約に直結するような条文にまで改正の必要性を匂わせている。
しかも、安倍元首相にいたっては、岸田首相が自分の傀儡であることを隠そうともせず、むしろ誇示している。
こちらも岸田首相が登場した「WiLL」に同じく安倍元首相も登場し、櫻井氏と対談。そのなかで、安倍元首相が退陣前にぶち上げ、岸田首相が選挙公約に盛り込んだ「敵基地攻撃能力の保有」について話題が及ぶと、安倍元首相はこう語っているのだ。
「私が防衛・安全保障について少しでも発言すると、なぜか野党やメディアは興奮してしまい、冷静に議論できなくなる(笑)。リベラルな印象の岸田さんが同じことを言っても、私ほどは反発を受けないはずです」
大前提として、敵のミサイル発射拠点を破壊する「敵基地攻撃」は、国際法にも憲法にも反する先制攻撃にほかならず、第二次世界大戦の反省から日本が原則としてきた専守防衛から逸脱するものであり、到底容認できるものではない。現に、ほかならぬ岸田首相自身が外相時代の2015年に「他国から武力攻撃を受けていない段階で自ら武力の行使を行えば、これは国際法上は先制攻撃に当たる」と国会で答弁していた。それを、総理の座を欲するあまりに岸田首相は総裁選時から「敵基地攻撃能力の保有」に前向きな姿勢を見せたのだ。
この岸田首相の露骨なご機嫌取りは信念のなさを如実に示しているが、その芯のなさ に付け込まれ、安倍元首相も「岸田さんはリベラルな印象だから反発を受けない」などと、岸田首相が自分の意志のままに操られるだけの存在であることを平然と語っているのだ。