前述したように、パラがおこなわれる東京をはじめ千葉も埼玉も静岡も感染爆発によって入院すべき容体の患者が入院できない状態に陥っており、自宅死の事例も発生している。ここまで感染が広がったのは無論、五輪開催によって菅政権が拡大を抑え込むことを放棄して矛盾したメッセージを国民に発信した結果だが、医療が崩壊した非常事態の国で再びスポーツの祭典を開催するなど、はっきり言ってありえない。
しかも、パラ選手と言ってもその障害は多岐にわたるが、たとえば脳性麻痺や頸髄損傷などで障害が重い場合、呼吸器の疾患がある人も多いという。実際、松本哲哉・国際医療福祉大学教授は〈多発性硬化症や脳性麻痺の選手は、疾患が肺の筋力に影響し、呼吸機能が衰えている場合がある〉と指摘し、さらに〈疾患や薬によって免疫が落ちていれば、ワクチンの効果も低くなり、重症化する恐れがある〉としている(朝日新聞8月14日付)。
また、そのワクチンにしても、「障害が進んでしまうのでは」「アレルギー体質があり、副反応が怖い」という不安を持つ選手も少なくなく、ある競技団体では〈約3割の選手が接種を希望しなかった〉という(毎日新聞6月18日付)。その競技団体の幹部は「障害がある人にとって、自分の体に(ワクチンや薬のような)何かを入れることは恐怖なのだと思う」と語っているが、それは当然の不安だろう。
このように、開催するには五輪以上に最大限の注意が必要なパラだが、対して五輪関係者の感染者が540人にものぼっているように、組織委の感染防止対策なるもののザルっぷり、「バブル方式」の崩壊はすでに周知のとおり。しかも、パラ関連の感染者も昨日16日時点ですでに36人。その一方、組織委の武藤敏郎事務総長は昨晩の会見で、来日するパラ選手や関係者のワクチン接種率について「詳細は把握していない」と発言。感染防止対策上で重要な情報も“知らない”と言い放ったのだ。
選手が感染したとき、すみやかに適切な医療を受けられる環境が整っている。これこそがパラ開催の最低条件だが、繰り返すが、この国はそんな状況ではない。逆に、パラ選手が優先されるようなことも許されるものではない。つまり、パラリンピックを開催する資格を、この国はすでに失っているのである。
だが、この国にパラ開催の資格がない理由は、それだけではない。もうひとつの理由は、組織委が障がい者の権利というものをまったく理解していないからだ。