菅首相は東京などへの3回目の宣言解除を決めた6月17日の会見でも、高齢者へのワクチン接種が進んでいることを理由にして「大会中は高齢者を中心とした重症者が減少してくると思う。そのなかで医療の負荷も大幅に軽減されると考えている」と語っていた。だが、実際には40〜50代の重症患者が増加し、医療逼迫が起こってしまっているのだ。
事実、東京都は本日、重症者の数を「60人」と発表しているが、これは都が「人工呼吸器かECMOを使用」した患者しか重症者としない独自基準での数字にすぎず、これらにICU(集中治療室)やHCU(高度治療室)などでの治療をくわえた国の基準にすると619人(19日時点)にものぼる。国基準で東京の重症患者の推移を見ると、6月中旬くらいから右肩上がりに急増。この619人という数字は、東京で医療崩壊が起こった1月下旬のピーク時を超えるものだ。
さらに問題なのは、自宅で待機・療養している人の数だ。本日20日19時に更新された東京都のデータでは、自宅療養者数は3657人で、入院・療養等調整中となっているのは1671人にも膨らんでいる。つまり、すでに5328人もの患者が自宅での療養・待機中の状況に置かれているのである。
これだけでも大変な危機的状況だが、さらに最悪なのは、今後、感染者数が減る要素どころか、増える要素しかないこと。無論、その要素とは「東京五輪の開催」だ。
前述した賀来教授は、東京がいま抱える大きなリスクのひとつに“緊急事態宣言が出ているのに人出が十分に減少していないこと”を挙げているが、実際、NHKの調査では、宣言が出て初めての週末となった17日(土)の渋谷スクランブル交差点付近や東京駅付近の人出は、3回目の宣言が出ていた時期と比較すると両地点とも日中・夜間ともに40%〜15%増となった。宣言が人出の抑止につながっていないのは、「宣言下での東京五輪開催」という矛盾した状況が引き起こしていることは疑いようもないだろう。
さらに、東京五輪の大会関係者の感染者も日に日に増加しており、大会開催でクラスターが発生するようなことがあれば東京の医療提供体制にも影響を及ぼす。その上、夏本番を迎えた東京では「熱中症警戒アラート」も出はじめ、19日には「運動は原則禁止」とする暑さ指数31以上を記録。同日には127人が熱中症の疑いで病院に搬送されている。
感染爆発に拍車をかけ、医療逼迫を引き起こす東京五輪を、それでも開催しようという菅首相。いまからでも遅くはない。総理大臣として人命第一に立ち、即刻、東京五輪は中止すべきだ。そしてそれをしないで医療崩壊が起こり、医療にかかれないまま亡くなるという犠牲者が出た場合、それは菅首相による故意の殺人だと言ってもいいだろう。
(水井多賀子)
最終更新:2021.07.20 09:55