さらに、トンチンカンなことを言い出したのは、おぎやはぎで矢作の相方である小木博明だ。小木はこんなことを語った。
小木「気持ち悪いのは大前提なんですけど。たぶんこの方は最近『ロリータ』っていう映画を観たのかなと思って。あれは、たしか14歳のコなんですよね、女性が。で、14歳の女性っていうのは、時には子どもっぽい、時には妖艶な雰囲気を醸し出すとか、とても複雑な年齢の、とてもいい映画なんですよ。」
矢作「大学教授とね」
小木「ぜひ、みなさん観ていただきたい。『ロリータ』、すごい名作ですからね。あれも14歳とたしか50歳近くだったと思うんだよな、博士」
小木はつまり、映画『ロリータ』をもちだすことで、主人公の中年男性が14歳の少女に性的欲望を抱き、性的関係をもつことを、矢作と同様、「性の多様性の表れ」「恋愛のひとつのかたち」であるかのように示唆したのだ。
しかし、小木はほんとうに『ロリータ』がどういう物語か知っているのか。『ロリータ』というのは、言うまでもなくロリコン(=ロリータ・コンプレックス)の語源にもなったウラジーミル・ナボコフの小説で、1962年にスタンリー・キューブリック監督、1997年にエイドリアン・ライン監督、によって映画化もされている。
だが、その物語は、けっして少女との性行為を美しい恋愛譚として描いているわけではない。
『ロリータ』のストーリーを簡単にまとめれば、30代後半の大学教授・ハンバートがロリータ狙いで母親と結婚し、母親の再婚相手=義父としてロリータに近づき、母親を間接的に死に至らしめ排除。ロリータにとって唯一の「保護者」として、支配関係のもとで性行為を強要するというもの。
最初の肉体関係も、ビタミンと騙して睡眠薬を飲ませ、ロリータの意識が明瞭でないなか、会話で巧みに誘導して行われ、翌日、ロリータが怒って警察に性的暴行を通報すると言ったり、一緒の部屋で寝たくないと抵抗する場面もある。
だが、母親が死んだことを聞かされハンバートの他に頼るすべがないと思い知らされたロリータは結局、その夜以降もハンバートと同室で寝ることになる。
その後も抵抗するロリータに対しハンバートは、もし警察に通報して自分が逮捕されれば身寄りのないロリータは感化院や教護院などの施設に送られ、いまより不自由な生活を送らなければならないと度々脅す。
そして、ロリータは2年ものあいだハンバートのもとを逃げる術をうかがい続け、最後は実際に逃げる(逃げた後も別の男による性搾取の被害を受ける)。数年後に再会した際も「人生をめちゃめちゃにされた」とハッキリと糾弾している。