官邸によるNHKへの恫喝があったのは、5月27日におこなわれたぶら下がり取材後のこと。この日、菅首相は夕方から田村憲久厚労相や加藤勝信官房長官、西村康稔経済再生担当相ら関係閣僚と会談して緊急事態宣言の延長について検討をおこない、会談後、記者からのぶら下がり取材に応じた。
ところが菅首相は冒頭から宣言の延長について明言せず「専門家に諮った上で決定いたします」と言うだけ。そのため、NHK記者をはじめ読売や朝日新聞などからも宣言延長の検討について質問が相次いだのだが、菅首相は同じ回答を繰り返すのみ。ついには司会者が「ありがとうございました」とぶら下がりを強制的に終了させようとしたが、そこで朝日の記者が更問い。そして、朝日記者への質問に答えたあと、菅首相はその場から立ち去ろうとしたのだが、ここでもNHK記者が更問いをおこない、宣言解除の可能性について質問。菅首相は「いずれにしろ、政府としては分科会にかけるということになっていますから、そこで専門家の意見を伺った上で判断するということです」と言い残し、立ち去った。
このぶら下がりの時間はたったの約3分。このように、宣言を延長することはわかりきっていたのに菅首相が何も答えないために同じような質問が繰り返されただけで、厳しい質問が投げかけられたわけではまったくないし、長々と記者が食い下がったわけでもない。
ところが、菅首相が立ち去った直後、こんなことが起こっていたと「週刊現代」(講談社)2021年6月12・19日号が報じたのだ。
〈あたりが騒然となったのはその直後だ。菅総理が去った後、外務省出身の首相秘書官・高羽陽氏がつかつかと戻ってきた。そしてNHKの記者を呼び、「更問(=複数回質問すること)はダメだって言ってるだろ! ふざけるな!」と怒鳴りつけたのである。〉
宣言解除の可能性という毒にも薬にもならないような質問なのに、更問いをおこなったというだけで「ふざけるな!」と怒鳴り散らす──。しかも、前述したように朝日新聞の記者が先立って更問いをしており、NHK記者はそのあとにつづいただけだ。にもかかわらず、高羽首相秘書官はNHK記者だけを呼び、恫喝したというのである。
高羽首相秘書官は菅首相の大のお気に入りで、菅首相が「オレの高羽です」と紹介するほどだと伝えられてきた人物だが、なぜ高羽首相秘書官はNHK記者だけを怒鳴りつけたのか。前述「週刊現代」の記事では全国紙政治部デスクが「放送行政を牛耳ってきた菅総理は『NHKが俺の言うことを聞くのは当たり前』という感覚でいる。官房長官秘書官も務め、長年菅氏に仕えてきた高羽氏も同じ」とコメントしているが、いかに菅官邸がNHKを目の敵にしているかがよくわかるというものだろう。
有馬キャスターの降板だけでは飽き足らず、いまなおつづいている菅官邸のNHK攻撃。今回のG7報道も、こうしたNHKの屈服ぶりがあらわになったということなのだろう。
(編集部)
最終更新:2021.06.14 10:51