まず、田村智子議員が取り上げたのは、昨年4月の雇用者数では対前月比で女性が約74万人、男性の約2倍も減少したという事実だった。この背景にはもちろん、コロナ禍で真っ先に首切りの対象になった非正規雇用の7割が女性という構造があるのだが、田村議員はあらためて菅首相に「非正規で働く女性たちがコロナ禍で雇用の調整弁にされている」実態をどう考えているのかを質したのである。
しかし、この質問に菅首相は「政府としてはさまざまな対応をさせていただいているところ」と力なく答え、田村憲久厚労相にいたってはこんなことを言い出した。
「正規で働ける場がなくて非正規で就かれている女性の方々もいるとは思います。一方で、ご自身が時間帯等々含めて、自ら望んでそういう職種に就かれる女性が多いのもたしかでございます」
「自ら望んで非正規で働いている女性がいるのも事実」って、それは家事や育児、介護を女性に押し付ける社会が前提にあるからだろう。それなのに、「自ら望んでいる」と言い張るとは……。
さらにひどかったのはこのあとだ。田村智子議員が「(昨年4月に)緊急事態宣言が出された途端、女性の非正規雇用が激減した。経験したことのないパンデミックのなかで、たちまち仕事を失って収入が途絶える。それがどれほど不安と苦しみをもたらしたか。このことと女性の自殺者の急増と切り離して考えることはできないと思うんですけど、総理の認識を伺いたい」と重ねて問うと、菅首相は「女性の自殺者の割合が高くなっているその原因・動機は、健康問題や家庭問題、経済・生活問題、さまざまなものがある」と言い、さらにこう強調したのだ。
「女性の正規は、じつは増えているんです」
小泉純一郎や安倍晋三をはじめとする自民党政権のなかで非正規雇用を増やしつづけ、それがいまこれだけの自殺者を出していることの大きな要因のひとつと指摘されているというのに、「女性の正規は増えている」と主張するとは、厚顔無恥もはなはだしい。しかも、この数年、全体の正規雇用が増えるのに比例して女性の正規雇用も増えているが、女性の正規雇用でもっとも増加している業種は医療・福祉業。つまり、看護師や介護士など「低賃金・過重労働」によって人手不足が問題となっている業種なのだ。
じつは、田村智子議員も総理答弁に切り返すかたちで、まさにその問題に踏み込んでいた。
「総理は『(女性の)正規雇用は増えている』とおっしゃった。いちばん増えているのは、医療・福祉なんですよね。だけど、その正規雇用は、女性は給料が安い。これも『当たり前』にされてきたんじゃないか(という問題)なんですよね」
そして、田村智子議員は女性看護師・女性介護員・女性保育士等と大卒・高卒の男性労働者との賃金比較を年代別にまとめたグラフを示したのだが、そのデータを見ても待遇差は歴然だった。
まず、女性看護師は20代の最初のころはで大卒よりも高いものの、20代半ばごろに逆転、そのまま差がどんどん広がっていく。女性介護員・女性保育士の場合は、最初から大卒・高卒の男性労働者と同等かそれよりも低い。しかも、20代から60代まで給与を示すグラフが水平に近い状態でほとんど上昇しないため、40、50代になると、その差は大卒男性とでは2倍〜2.5倍以上に広がってしまう。