実際、『政治家の覚悟』に書かれている人事の経緯をみても、菅氏のやったことは「感情の人事」以外の何物でもない。総務相時代、菅氏が更迭したのは、当時、情報通信政策局放送政策課長だった南俊行氏。この南氏が新聞社の論説委員との懇談の場で菅氏のNHK改革の方針に対して否定的なことを口にしたという話が、総務相だった菅氏のところに漏れ伝わってきた。すると、菅氏は聞くや否や、「質問もされていないのに一課長が勝手に発言するのは許せない。担当課長を代える」と宣言。幹部から「マスコミに書かれ、大問題になりますよ」と進言されても「構わない。おれの決意を示すためにやるんだ」「いいから、代えるんだ」と押し切ったのだという。
面と向かって反対されたわけでなく、懇談で否定的な意見を語っていたことを伝え聞いただけで、その人物を更迭するとは「報復人事」「恐怖支配」としか言いようがない。まさに「課長ごときが生意気な、左遷してやる」というのが当時の菅氏の本音だったのだ。
しかも、南氏を「左遷」したあと、菅首相が後任に抜擢したのは、菅首相の長男による接待を受けていた吉田眞人・総務審議官だった。ようするに菅首相はこういう「感情の人事」で官僚に恐怖を植え付け、忖度官僚だけを周りに配置してきたのである。その結果、起きたのが長男による接待だったのだ。
しかし、だとしても、国会で追い詰められ、自ら「左遷」という本音を漏らして感情的人事を認めてしまうとは、ポンコツにも程があるだろう。
菅首相のポンコツ発言はこれだけではない。こんな状況で、女性差別と言っていいジェンダーバイアス丸出しの発言まで口にしてしまったのだ。
それは、1日におこなわれたぶら下がりでのこと。菅首相はその1週間前のぶら下がりで山田内閣広報官を続投させることについて「女性の広報官として期待している」と説明していたが、この日、記者からその発言を受けて「登用の理由に女性であることを強調したのはなぜか」という質問が出た。すると、菅首相はこう語ったのだ。
「あのー、いままさに、女性のきめ細かさとか、あるいは日本の官僚の女性の数も非常に少ないですし、そうした女性として働いてきた、まあそういう経験もあります。行政にも長けてます。そういうかたちのなかで期待して登用させていただいた」
汚職問題で処分しなかった理由に「女性」であることを持ち出したことも論外なのに、今度は「女性のきめ細かさ」って……。「きめ細かさ」というのは女性特有のものなどではなく、女性が押し付けられてきた固定的な観念や規範、ジェンダーバイアスにほかならない。そうした「女性とは」「男性とは」という固定化が偏見や差別を生んでいるというのに、菅首相はしゃあしゃあと言ってのけたのである。
2日の衆院予算委員会では、自民党の鬼木誠衆院議員が丸川珠代五輪担当相を持ち上げようと「(国際会議の場でも)各国首脳からアジアンビューティーと呼ばれ、大変人気があった」などと言い出し、「セクハラだしルッキズムだ」と批判を浴びているが、上に立つ菅首相がこの有様なのだから、自民党が女性差別を理解するなど、どだい無理な話なのだ。