メールに記載された情報が実在する人物の「正しい」ものだと認めておきながら、流出したかどうかは「わからない」とは無責任にも程があるが、こうした態度は、その後、答弁に立った田村憲久厚労相も同様だった。
また、当時の厚労相である加藤勝信官房長官も18日の会見でこの問題を問われたが、再委託発覚後に日本IBMが技術的に検証したとし、「再委託したのは氏名、ふりがなのみ」「調査結果は第三者機関も検証し、日本IBMの結論には信頼性があるとの評価を受けた。一定の結論は得られている」と言い張った。
だが、この「流出はなかった」とする“結論”には、厚労省内部でも疑問の声が上がっている。2020年秋、厚労省の社会保障審議会の検証作業班がこの問題についての中間報告書の未定稿に、以下のようなくだりがあったことを長妻議員が明らかにしたのだ。
〈中国の事業者には氏名・フリガナのみが開示されたとされているが、実際にはその他の情報が開示されていた可能性がある〉
この中間報告書には、ほかにも作業班メンバーの指摘事項として〈氏名、フリガナのみだったするのは機構が独自に確認したことをIBMに伝えただけである〉〈機構の説明は不十分。客観的根拠を示した上で、情報漏洩の可能性の有無について説明する必要がある〉という記述があったという(東京新聞19日付)。
ようするに、この年金受給者の中国へのマイナンバー流出については、年金機構の特別監査自体がかなりずさんなもので、内部でも流出を否定できないという意見が噴出したため、中間報告書も正式に出せず、未了のままになっているのである。
ところが、厚労省と年金機構はいまだに「情報流出はない」として再調査を拒否している。
おそらく日本政府、そして菅政権は、国民の個人情報やプライバシー保護なんてどうでもいいと考えているのだろう。
だとしたら、今後もこうした流出は必ず繰り返されるし、さらに被害は拡大していくかもしれない。なぜなら、菅政権は個人情報保護への意識の低さはそのままで、マイナンバーによる国民の一括管理に躍起になっているからだ。
マイナンバーカードの普及に巨額の予算を注ぎ込み、来月からはマイナンバーカードを健康保険証として利用できる制度をスタート。運転免許証との一体化や個人の預貯金口座情報との紐付けなども進めようとしている。また、AIやビックデータを活用した日本型スーパーシティ構想でも、マイナンバーによる管理が謳われている。
しかし、肝心の個人情報のセキュリティがここまでザル状態では、こうした一元管理、紐付けは逆にリスクを増大することにしかならない。これまではマイナンバーが漏れるだけで済んだが、これからは、何かが漏れれば、納税額や通院歴、免許の違反歴など、紐付いている情報がすべて流出し、反社会勢力に詐欺などで利用されかねないからだ。
デジタル庁などという中身のない箱をつくって、空疎な計画を喚き立てる前に、政府はもっとやるべきことがあるのではないか。
(野尻民夫)
最終更新:2021.02.21 05:36