宇野教授の父親である宇野重昭氏は、2017年に亡くなっているが、元外交官で、北東アジアや中国政治史を専門とする国際政治学者。そして、安倍前首相の母校である成蹊大学で学長まで務めた人物だ。しかも、学生時代は直接、安倍首相を教えており、安倍首相が政界入りしてからも付き合いがあったという。
まさに安倍首相にとって“成蹊大時代の恩師”だったわけだが、その重昭氏は亡くなる前年、ジャーナリスト・青木理氏の取材に応じ、安倍氏を「安倍くんは間違っている」「もっと勉強してもらいたい」「もっとまともな保守に」と厳しく批判していた。
重昭氏が安倍批判をしたのは、青木氏が2015年から2016年にかけて「AERA」(朝日新聞出版)に連載していたルポ「安倍家三代 世襲の果てに」の最終回。この連載は、その後『安倍三代』として書籍化され、現在は文庫(朝日文庫)になっているが、記事のなかで重昭氏はまず、教え子である安倍首相との関係についてこう語っていた。
「彼(晋三)が入学した当時、私は国際政治学とアジア研究を担当していました。たくさんの学生の一人として彼を見て、成績をつけたのは覚えています。政界入り後も食事をしたり、ゆっくり話をしたこともあるので、ある程度の人柄も知っているつもりです」
「私はどちらかというとリベラリストですが、決して右でも左でもない。中国の要人や知識人に会うと、彼(晋三)をすごく批判し、極右だと言わんばかりだから、『そんなことはありません』とも言ってきたんです」
しかし、一方で、安倍首相が安保法制を強行成立させたことについて、重昭氏はこう厳しく批判していた。
「(安保法制は)間違っている、と思います。正直いいますと、忠告したい気持ちもあった。よっぽど、手紙を書こうかと思ったんです」
「彼は首相として、ここ2、3年に大変なことをしてしまったと思います。平和国家としての日本のありようを変え、危険な道に引っ張り込んでしまった」
そして、最後は涙を浮かべながら、安倍首相にこんなメッセージを投げかけていた。
「現行憲法は国際社会でも最も優れた思想を先取りした面もある。彼はそうしたことが分かっていない。もっと勉強してもらいたいと思います」
「彼の保守主義は、本当の保守主義ではない(略)彼らの保守は『なんとなく保守』で、ナショナリズムばかりを押し出します(略)私は彼を……安倍さんを、100%否定する立場ではありません。数%の可能性を、いまも信じています。自己を見つめ直し、反省してほしい。もっとまともな保守、健全な意味での保守になってほしい。心からそう願っています」