もちろん、NHKが百地氏のこうした活動を知らなかったということはありえない。実際、NHKは2016年5月2日に放送した『クローズアップ現代+』では、改憲運動を主導する日本会議の“中心メンバー”として百地氏を登場させ、そこで百地氏は「首相が突然(改憲議論に)入ってきたわけではなく、これまでの運動のなかで首相が誕生した」などとコメントしていた。NHKはどんな人物かをしっかり認識した上で、今回、あえて百地氏を登場させたのだ。しかも、NHKは『NW9』だけではなく、つづけて放送された、日本学術会議問題を取り上げた『クローズアップ現代+』でも百地氏のコメントを流したのである。
このNHKの対応に対しては、リベラルのあいだからも、山極前会長の「告発」を放送したことを評価し、百地氏を登場させたことも「両論併記」として致し方なかったという意見があがっている。しかし、今回の任命拒否は明確な違法行為であり、「両論併記」するような解釈が分かれるような問題ではけっしてない。さらに、百歩譲ってもし「政府対応に理解示す意見」を紹介するために百地氏を登場させるのであれば、氏がデマを喧伝した団体の理事であり、筋違いの意見広告にも名を連ねていることにも言及すべきだ。
今回、NHKがおこなったことは、「両論併記」に見せかけて「意見は二分している」「憲法学者もこう言っている」というお墨付きを与えるという行為であり、公共放送として見過ごすことのできないものだ。無論、山極前会長が官邸による人事介入をカメラの前ではじめて語るというスクープをものにしながら、一方でこのような極端で歪な報道をおこなったのは、安倍政権時からメディア圧力を担ってきた菅氏が総理になったことで、より強固なプレッシャーとそれに対する忖度が働いていることを証明したようなものだ。
こうしたメディアによる「両論併記」を装って政権のトンデモ主張にお墨付きを与える誘導を見過ごせば、一向に問題の本質・焦点、そして菅首相がいかに道理の通らないことを答弁しているのか、視聴者には伝わらない。これを放置しつづけることはできないだろう。
(編集部)
最終更新:2020.11.01 08:32