しかし、繰り返すが、戦時中の朝鮮人強制連行は歴史的事実であり、人間の生きた証そのものを記録や記憶から消してしまおうとする歴史修正は、許される行為ではない。
強制連行の実証的研究で知られる東京大学の外村大教授は、こんなことを述べている。
「特に90年代半ばからですね、史料の発掘が進み、いろんな話が出てきました。朝鮮人の待遇が日本人よりよかったとか、自ら望んで来た人がいたとか。いずれも事実の断片ではあるんですよ。じゃあ暴力的な連行や虐待は例外的だったかというと、それは違う」
「事実というものは無限にあるものです。都合のいい事実だけをつなぎあわせれば別の歴史も生まれる。でも、それは『こうあってほしい』というゆがんだ願望や妄想に近い」(朝日新聞2015年4月17日付インタビュー)
安倍前首相が今回、持ち出した資料は「事実の断片」でしかなく、それによって「暴力的な連行や虐待」を示す資料や証言を否定することは、まさしく「ゆがんだ願望や妄想」にほかならない。
朝鮮人徴用工の強制動員の否定や靖国神社の参拝といった言動によって、安倍前首相はネトウヨや極右にアピールをし、求心力を維持することに躍起になっている。その裏には「3度目の総理返り咲き」という欲望があるのはミエミエで、このコロナ禍にあって政権を放り出したことの責任など微塵も感じていないらしい。そのこと自体にも怒りを覚えずにはいられないが、今後、安倍前首相が自身の私利私欲による歴史修正発言を繰り返すことは必至であり、引きつづき監視が必要だ。
(編集部)
最終更新:2020.10.25 10:01