もちろん、日本学術会議の10億円という予算額が妥当なのかどうかは議論の余地はあるだろう。言っておくが、学者たちの無駄遣い、利権化という話ではない。むしろ、その予算の大半が事務局担当の国家公務員の人件費に回され、学術的なことにほとんど使われておらず、日本学術会議の会員などからは逆に「手弁当でやっている」「交通費が出ないこともある」というような声が出ているからだ。しかし、それはまったく今回の問題とは切り離されるべき話だ。何度でも繰り返すが、いま問題になっているのは、菅首相が独立した機関に対して違法な人事介入をおこなったことだからだ。
しかも、菅政権がこうして「行政改革」などと言い出しているのは、問題の本質である、任命拒否の「法的根拠」や「任命拒否した理由」を答えられないからだ。
実際、昨日8日におこなわれた参院内閣委員会の閉会中審査では、日本共産党の田村智子議員が「『推薦された者を任命拒否することはあり得る』という日本学術会議法の法解釈を示す文書はあるんですか?」と追及すると、木村陽一・内閣法制局第1部長は「明瞭に記載したものというのは、私が知るかぎり見当たりません」と答弁するほかなかった。
さらに、本サイトでも既報でお伝えしたように、日本学術会議に対する不当な人事介入は安倍政権下の2016年からはじまっており、さらに2018年の補充人事でも日本学術会議側が示した推薦候補者に安倍官邸が理由を説明することもなく難色を示し、当時の会長だった山極寿一・京都大学前総長が〈直接、候補選出の根拠を説明したいと約1年にわたって再三申し入れたが、拒まれ続けた〉という事実が新たに判明している(毎日新聞ウェブ版8日付)。
こうした経緯からも、気に食わない学者を恣意的に排除しようとした、萎縮を促すために「見せしめ人事」をおこなったことは明々白々であり、「任命拒否した理由」など明らかにすることはできるはずもない。しかもそれはどこからどうみても法に反する行為であり、弁解の余地もないのだ。
だからこそ、菅政権は日本学術会議を「敵」に仕立て上げ、「行政改革」だの「悪しき前例主義・既得権益の打破」を叫ぶことで国民からの批判をむしろ日本学術会議に向けさせようとしている。まったく、これほど国民を見下し、馬鹿にしきった態度があるだろうか。この菅首相の卑劣なやり口をけっして看過することはできないだろう。
(編集部)
最終更新:2020.10.09 08:26