実際、1983年5月12日の参院文教委員会では、日本学術会議の新会員の選定を公選から推薦にし、その推薦に基づいて総理大臣による任命制をとるとする改正案について、手塚康夫・内閣官房総務審議官(当時)は「私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません」と答弁。さらに、高岡完治・内閣官房参事官(当時)も「内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうにこの条文を私どもは解釈」「内閣法制局におきます法律案の審査のときにおきまして十分その点は詰めたところ」と答弁している。さらに、当時の中曽根康弘首相も、こうはっきりと述べていたのだ。
「学会やらあるいは学術集団から推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎません」
「実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので、政府の行為は形式的行為」
現に、この改正案が可決された際の附帯決議では〈内閣総理大臣が会員の任命をする際には、日本学術会議側の推薦に基づくという法の趣旨を踏まえて行うこと〉とある。つまり、政府見解では総理による任命は「形式的行為」でしかなく、日本学術会議からの推薦を任命拒否することは、明確に「法の趣旨」に反しているのである。
しかし、内閣府と内閣法制局が参加した本日の野党合同ヒアリングでは、新たな事実が判明した。というのも、「任命拒否」をめぐっては、2018年に内閣府は内閣法制局に対し法解釈について問い合わせをおこない、菅政権発足直前の先月9月2日ごろにも内閣府は内閣法制局に2018年の法解釈について口頭で確認をおこなったというのだ。
これが事実ならば、安倍政権時代から日本学術会議からの推薦者を任命せずに拒否する策を練っていたということになる。実際、日本学術会議は2017年3月にも軍事研究を否定した過去の声明を継承するとした新声明を出すなど、軍学共同を進める安倍政権に釘を刺していた。同年秋におこなわれた改選で安倍首相は任命を拒否することはなかったが、実際には政策に疑義を唱える日本学術会議への報復のため、人事による萎縮を狙い任命拒否できる方法を探っていたのだろう。
となると、重要なのは2018年におこなわれたという法解釈の中身だが、野党合同ヒアリングで「解釈変更したのか」と問われても、内閣府や内閣法制局側は「まさに義務的に任命されなければならないということではないというふうに解釈している」などと明言を避け、今回の任命拒否は「解釈の変更ではない」と強弁。2018年に作成されたという法解釈にかんする文書も「確認中」だと繰り返して提出されることはなかった。