象徴的なのが、6月上旬に明らかになった、香港国家安全維持法導入をめぐり中国政府を批判するアメリカ、イギリスなどによる共同声明への参加を拒否した問題だ。
これは共同通信が6月7日に報じたもので、〈複数の関係国当局者〉が明らかにした情報として、〈香港への国家安全法制の導入を巡り、中国を厳しく批判する米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたが、拒否していた〉〈中国と関係改善を目指す日本側は欧米諸国に追随しないことで配慮を示した〉という。
だが、この共同通信の記事に安倍自民党のネトウヨ議員が次々と噛みつき、記事内容を全否定。この共同電を配信していた産経新聞が記事を削除したことから、「共同通信のデマ記事」だと決めつけた。
さらに、翌8日には時事通信が「日本の対応「米英も評価」 中国の国家安全法導入方針で―菅官房長官」というタイトルで記事を配信すると、ネトウヨたちは「デマ記事確定」扱いをした。
しかし、本サイトが当時報じたとおり(https://lite-ra.com/2020/06/post-5467.html)、この報道はデマなどではない。菅官房長官はすでに日本単独で「憂慮を表明した」ことを持ち出したり、「米英は日本の対応を評価している」と繰り返しただけで、「共同声明の打診はあったのかどうか、そしてそれを拒否したのかどうか」という問題には一切答えず、明確に否定しなかった。また、共同通信も記事を訂正することなく、ロイターなど海外メディアも後追い報道している。
この騒動直後の6月10日に、安倍首相が国会で「日本がG7で共同声明の発出をリードしたい」旨を発言し、中国から抗議を受けているが、この発言も声明拒否報道の打ち消しのためのアピールでしかないだろう。実際、その約1週間後に出されたG7外相声明について国内メディアは「日本が提案した」などと報じているが、英ガーディアン紙によれば、中国と曖昧な関係にある日本をイギリスが説得したとある。さらに、その後「国家安全維持法」導入が現実になっても、結局、前述したように「遺憾」としか表明していない。
しかも、中国の暴挙に対して日本が明確に批判をしないのはこれが初めてではなかった。
昨年夏、容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」をめぐって香港で抗議デモが広がり各国が中国政府を批判するなか、「大きな関心を持って注視している」「香港が『一国二制度』の下で自由で開かれた体制を維持し、民主的に力強く発展するよう期待する」などと明確な批判には踏み込まなかった。
やはり香港やウイグルでの人権弾圧が問題になっている最中の昨年12月にも、中国・成都で安倍首相が、習近平国家主席や李克強首相と会談した際には、香港について「自制と早期収拾」、ウイグルについて「透明性をもった説明」を望むと述べるなど、最低限言及しただけ。それどころか、嵐を「日中親善大使」に起用することを習主席と李首相に直々に伝えるなど、今年4月に予定されていた習主席の訪日に向けてご機嫌をとる始末だった。