まさに安倍政権にとって、専門家会議が責任押し付けと政治利用の道具でしかなかったことの証左だが、実際、専門家会議では以前から、そうした安倍政権のやり方に不満が高まっていた。
西村コロナ担当相による廃止発表と同時進行でおこなわれた24日の専門家会議の会見でも、そのことはうかがい知れた。この日の会見は「次なる波に備えた専門家助言組織のあり方」を政府に提言するものだったが、会場は厚労省や官邸ではなく日本記者クラブ。そして、会見で脇田隆字座長は、感染拡大への危機感の高まりから専門家会議が積極的に情報発信した点を「前のめり」になったと語りつつも、「国の政策や感染症対策は専門家会議が決めているというイメージがつくられ、あるいはつくってしまった」と発言。政府への提言のなかでも〈本来、専門家助言組織は、現状を分析し、その評価をもとに政府に対して提言を述べる役割を担うべきである。また、政府はその提言の採否を決定し、その政策の実行について責任を負う〉とし、責任主体は政府だとはっきり突きつけた。
強い言葉はないものの、言外ににじみ出る政府に対する不満──。こうした総括は当然、必要なものだが、本来ならば政府が率先しておこなうべきものだ。しかし、それさえも政府はやろうとしなかったばかりか、専門家会議がこの会見をおこなうこと自体も妨害していた。
〈政府は、尾身氏らが会見を開くことに懸念を抱いていた。
ある政府関係者は、「一部で国の対策は専門家会議が決めているというイメージが作られた」との尾身氏らの主張に「役割分担はできていたはずだ」と反論。会見を控え、厚生労働省や内閣官房の担当部局が尾身氏らと水面下で調整したが、「発信したいということを止める理由もない」と最後は静観した。〉(朝日新聞デジタル25日付)
「役割分担はできていた」って、はっきり言ってまったくのデタラメだ。安倍首相は何かあると「専門家」に責任を押し付けただけではなく、専門家の意見を聞きもせず打ち出した政策を、あたかも専門家の提言があったかのように語ってきたからだ。
たとえば、全国一斉休校についても、安倍首相は「ここ1〜2週間が極めて重要という専門家のご指摘をいただいた」などと説明したが、その後、脇田座長が国会で「必ずしも議論していない」と答弁したように、実際は完全に官邸主導で決定したことだった。また、緊急事態宣言の期間延長について国会で問われた際にも「最初に緊急事態宣言を出したときから、いわばこれは専門家のみなさまの分析、ご判断に我々は従っている」(4月17日衆院厚労委員会)と述べ、専門家に責任を押し付けていた。その後、専門家の意見を無視して解除に踏み切ったことは前述したとおりだ。
いや、それどころか、専門家の意見を封じ込めていたことも判明している。専門家会議が発表した提言や見解に対し、政府が文言を修正・削除させていたからだ。