日本のメディアでは、大坂選手について「日本人らしい謙虚さ」「日本の心」などと強調されることが多い。しかしそれは多様なバックグラウンドを持つ大坂選手の、ほんの一面にすぎない。周知のとおり、大坂選手は日本人の母とハイチ出身の父の間に生まれ、アフリカ系のルーツも持ち、アメリカで育った。日本でもアメリカでも多くの差別に晒されてきたことも想像に難くない。差別に憤り、ときに激しい言葉も使いながら発言するのは当然だし、それも大坂選手の魅力だろう。
ところが、日本では大坂選手の怒りがきちんと伝えられていない。テニスは強いけど、控え目で自分の意思で発言したりしない、ただ自分たちの「日本スゴイ」を満たしてくれる。そんな都合のいい存在に押し込んでおきたいのではないか。
以前、日清のアニメCMで描かれた大坂選手の肌がホワイトウォッシュされており問題になったときもそうだった。このとき、大坂選手は今回のように怒りはしていないが、実際はこのCMについて不適切との認識を示していたにもかかわらず、複数のメディアが誤訳とミスリードによって「気にしていない」「なぜ騒いでいるかわからない」などと報じた。
ネトウヨに限らずメディアにも、差別について怒ったり、発言してほしくないという潜在的な願望があるのだろう。それが「賢い大人の対応」とも思い込んでいる。
しかし、大坂選手はちがう。理不尽な差別や人権侵害には、こうして毅然と声をあげる、それがほんとうの彼女なのだ。しかも、その言葉からは激しさだけでなく、知性とユーモア、そして史上最高年収を手にした女性アスリートにまでなった者としての、社会的責任感さえ感じる。
大坂選手のエージェントであるIMGのスチュアート・ドゥグッド氏はニューヨーク・タイムズの取材に対し、以前こう語っていた。
「15年後の未来を想像したとき、彼女はグランドスラムのタイトルをいくつも獲るようなテニス選手として素晴らしいキャリアを築いていると思う」
「でもそれだけではない。彼女は、日本で多様な人種の文化が受け入れられるように変えてくれるだろう。彼女が後に続く人たちのための扉を開いてくれたこと、それは単にテニスやスポーツだけのことではなく、社会のすべての人々のためのものであることを願っている。彼女はそういう変革のアンバサダーになれると思う」(2019年8月23日)
わたしたちは、いまこそ大坂なおみ選手の発信を受け止め、黒人差別に抗議の声をあげるとともに、自らの社会の差別と排他性を省みるべきだろう。
(本田コッペ)
最終更新:2020.06.07 02:47