まったく嘘八百もいいところだが、さらに櫻井氏は、IR汚職で自民党の秋元司衆院議員が逮捕された件を持ち出して「(黒川氏は)必ずしも安倍政権に近いとかですね、安倍政権に優しいということではないにもかかわらず、各メディアのなかで必ずと言っていいくらい『安倍政権に近い』ということを枕詞のように書いている」と発言。小渕優子経産相(当時)の公職選挙法違反疑惑で秘書のみが在宅起訴で終わったことや、贈賄側の実名証言まであった甘利明経済再生相(当時)の口利きワイロ事件で甘利本人はおろか秘書すら立件されなかったこと、森友学園への国有地不正売却や公文書改ざんで政権や財務省への捜査が潰されたこともすっ飛ばして小物議員の逮捕にとどまっている一件だけ持ち出すとは姑息にも程があるが、櫻井氏は「(『安倍政権に近い』というメディアの表現は)正しいと思われますか?」と安倍首相に質問したのだ。
すると、安倍首相はいけしゃあしゃあとこう答えたのだ。
「いままでこの、イメージをつくり上げているんだろうと思います。それはまったく事実ではありませんし、たとえば私自身ですね、えー、この黒川さんと2人でお目にかかったことはありませんし、個人的なお話をしたことはまったくありません。ですから大変私も驚いているわけなんですけどね」
2人きりで会ったこともないのにメディアは「安倍政権に近い」と報じてイメージづくりをしている──。今回もまた安倍首相の十八番である「メディアの印象操作だ!」攻撃が繰り出されたのだ。
だが、この「黒川さんと2人でお目にかかったことはありません」という抗弁については、すぐさまネット上で「嘘だ」との指摘の声が上がった。2018年12月11日の首相動静に、こんな記録が残っていたからだ。
〈3時36分、麻生太郎財務相、財務省の岡本薫明事務次官、太田充主計局長。4時7分、太田氏出る。可部哲生理財局長加わる。15分、全員出る。25分、黒川弘務法務事務次官。〉
これを見るかぎり、4時25分からの黒川氏との面会に同席者はおらず、2人で会っていたとしか思えないのだが……。
しかも、メディアが黒川氏のことを「安倍政権に近い」とか「安倍政権の守護神」と書くのは、安倍首相との直接の関係だけを指しているわけではない。黒川氏のカウンターパートはもっぱら菅義偉官房長官であり、頻繁に会っているところが目撃されている。安倍首相が直接、黒川氏に働きかけるまでもなく、黒川氏との強いパイプが安倍官邸内に築かれ、その結果、あらゆる事件が潰されてきた。そうした事実に基づいて黒川氏は「安倍政権に近い」と呼ばれているのだ。
それを、「2人きりで会った」かどうかという話に矮小化して、挙げ句「メディアがイメージをつくり上げている!」とは……。