元NYタイムズ東京支局長でジャーナリストのファクラー氏
新型コロナウイルスの感染拡大のなか、世界各国で問題となっている数々のデマやフェイク情報。「インフォメーション」と「エピデミック(伝染病)」を合体させた「インフォデミック」という新語も生まれるなど、その危険性が大きな問題となっている。
もちろんこれは、日本も例外ではない。そうしたデマやフェイク情報が、民族差別を助長したり、感染者や休業していない店などに対する攻撃を引き起こすなどしている。しかも日本ではコロナ禍をめぐって、一般市民のSNSに限らず、政府や政治家からもデマやフェイク情報が発信されるという事件もあった。
インフォデミックはなぜ生まれ、どう抗えばいいのか。今回、元ニューヨークタイムズ東京支局長で現在も日本を拠点にジャーナリスト活動を続けるマーティン・ファクラー氏に特別寄稿いただいた。ファクラー氏といえば、日本のメディアと政権の癒着についても警鐘を発してきた。先日『フェイク・ニュース時代を生き抜く データ・リテラシー』を上梓したばかりのファクラー氏が、インフォデミックの危険性、デマに騙されないための具体的な情報スキルについて解説する。
(編集部)
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新型コロナの感染が拡大するアメリカやヨーロッパ諸国で、それに勝るほどの勢いで同時期に広がりを見せた問題がある。それはソーシャルメディア上での、コロナ禍にまつわる「意図せざる誤報」の蔓延と、「悪意ある偽情報」のキャンペーンである。
人類の健康危機というのは当然、最優先事項であり深刻な問題だ。ところが、それにとどまらずアメリカ社会は、ウイルスのフェイクニュースや陰謀論が猛威を振るう「インフォデミック」に直面している。この新しい言葉は、「インフォメーション」と「エピデミック(伝染病)」を掛け合わせた造語である。すなわち、ウソ情報の伝染病ということだ。
欧米諸国に広がるこのインフォデミックから得られる教訓は、同じことがすでに身の回りで生じつつある日本人にとっても有用だ。
アメリカで流行った新型コロナの典型的なフェイクニュースを挙げると、「消毒剤や漂白剤が感染を防ぐ」「ニンニクが症状の進行を和らげる」「5Gの電波で感染する」といったものがある。中でも最も有名なのは、中国あるいはアメリカの軍部が相手を攻撃するためにウイルスを作ったというものである。
中国の国営メディアはフェイクニュースと偽情報を垂れ流し、ソーシャルメディア経由でアメリカ社会に入ってきている。逆に、アメリカの政治家たちも同じことをし、その中にはあの大統領も含まれる。