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ワセダクロニクル「吉田調書報道の真実」前編

「吉田調書」を報じた朝日新聞特報部元記者らが改めて検証! 誤報ではない「吉田調書報道」をなぜ朝日新聞は自ら葬り去ったのか

 吉田所長の「所員たちは第一原発の敷地内の放射線量の低いところにとどまって待機するように」という命令は、第一原発と東電本店をつないだテレビ会議で伝えられた。このテレビ会議は、第二原発や柏崎刈羽原発、オフサイトセンターにもつながっていた。

 命令から2時間後の3月15日午前8時35分、東電は東京で記者会見を開いた。所員は吉田所長の命令に反して、9割にあたる650人が第二原発に行ったあとの時刻だ。ところが、東電は記者会見でこう公表する。

 「所員は一時的に第一原発内の安全な場所へ移動した」

 つまり東電は、所員が吉田所長の命令通りに行動したと、事実とは違うことを公表した。第二原発に撤退した事実を把握していなかったのか、ウソをついたのか、そのいずれかになる。

 朝日新聞はこの日のことを、2014年5月20日の朝刊で報じた。1面トップの主見出しは「所長命令に違反 原発撤退」。2面では「東電はこの命令違反による現場離脱を3年以上伏せてきた」と書いた。

 3面には当時特報部員だった木村英昭(現ワセダクロニクル編集幹事)は「再稼働論議 現実直視を」という見出しで解説を書いた。

「吉田調書が残した教訓は、過酷事故のもとでは原子炉を制御する電力会社の社員が現場からいなくなる事態が十分に起こりうるということだ」
「その時、誰が対処するのか。当事者ではない消防や自衛隊か。特殊部隊を創設するのか。それとも米国に頼るのか」

 ところが「所長命令に違反 原発撤退」という表現は、「第一原発の所員が臆病で逃げ出したと書いているのに等しい」という批判が他メディアから出てきた。現場が混乱し、所員に吉田所長の言葉が伝わらなかった可能性がある以上、「命令」「違反」「撤退」の三つの言葉の組み合わせは所員の名誉を傷つけたという主張だ。

 では、なぜ「命令」「違反」「撤退」という言葉が記事では使われたのか。取材班の説明は次のようなものだ。
 
 (1)「命令」という言葉: 吉田所長は原子力災害の現地対策本部の責任者で、対応の判断と決定は吉田所長が負っていた。吉田所長が「東日本壊滅」をイメージするような深刻な状況で、戦時下にも匹敵する。単なる「指示」ではなく、「命令」だ。

 (2)「違反」という言葉: 命令を知らなくても、違った行動をとれば違反だ。一方通行の標識を見落として道路に進入して「知らなかった」といっても、交通違反になるのと同じだ。

 (3)「撤退」という言葉: 第二原発に行ったことが故意とはいえないので、「逃げた」という表現は使わないことにした。「撤退」を使ったのは、第二原発が第一原発から10キロ離れていて、何かあってもすぐ戻れない上、9割の所員が第二原発に行ったから。また、撤退の翌日も所員の8割が第一原発に戻っていなかった。

 だが取材班の主張は聞き入れられなかった。

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