もっとも8日夜の会見で、ゴーン氏が口にしたのは、6人の元日産幹部の名前だけで、菅官房長官や今井首相補佐官などの名前は結局、出てこなかった。菅や今井だけではない、政権幹部や経産省官僚についても一切口にしなかった。
前述したように、米テレビ「FOXビジネス」が6日までに取材した際、ゴーン氏は自身の逮捕・起訴の背後には日本政府の関係者もいたとして、8日に予定される記者会見で数人の実名を明らかにする方針を語っていた。それを突然とりやめてしまったのだ。ゴーン氏は昨夜の会見でその理由についてこう語っていた。
「日本政府関係者の名前を挙げることもできる。だが、私はいまレバノンにいて、レバノンを尊重している。レバノン当局が自分にしてくれたことに感謝している。レバノン当局の仕事を難しくすることを望まない。なので、この部分については沈黙を保ちたい。何かを言って、レバノンの人々やレバノン政府の利益を損なうことはしたくないからだ」(会見でのゴーン氏)
ゴーン氏はレバノン政府の利益を損なわないよう「日本政府関係者」の実名暴露を控えたと説明したのだが、なぜ、日本政府関係者の名前を出すことがレバノン政府の利益を損なうことになるのか。
実は、ゴーン氏が会見を開いた前日、在レバノン日本大使館の大久保武大使が、レバノンのアウン大統領と会談をしている。
朝日新聞によると、大久保大使はゴーン氏の逃亡について「誠に遺憾で、我が国として到底看過できるものではない」と伝え、〈事実関係の究明を含め必要な協力をするよう求めた〉というが、実はこのとき、レバノン政府からゴーン氏に対して「日本政府関係者」の名前を会見で公にしないよう、密かに釘を刺したのではないかといわれている。
あるいは、日本政府が別の外交ルートを使って、レバノン政府に圧力をかけていたことも考えられる。周知のように、菅官房長官はゴーン氏の身柄引き渡しについて「様々な外交的手段を行使したい」と述べるなど、プレッシャーを強めているが、実は、日本はレバノンに対して巨額の経済支援をおこなっている。外務省HPによれば、2017年末までの有償資金協力が約130億円、無償資金協力が約69億円、そのほか約18億円の技術資金協力もしており、こうした実績を“カード”にして交渉していたとしても不思議ではない。
いずれにしても、レバノン政府が日本政府の圧力に屈し、ゴーン氏へ「日本政府関係者」の名前を出さないように要請していたとすれば、あれだけ実名暴露に鼻息を荒くしていたゴーン氏が、突然、口をつぐんでしまったことも説明がつくだろう。
ゴーン氏は会見の質疑応答のなかで日本政府の関与について訊かれ、わざわざ「安倍総理が関わっていたかという質問であればそうではないとお答えしたい。自分自身の言葉に気をつけなければならないので、沈黙する」と強調していた。本サイトでも伝えたように、ゴーン氏が経産省関係者も含めて実名公表を一切封印したのに、ことさら安倍首相だけを挙げて関与を否定したことは、暗に、それ以外の政権幹部の関与、そして日本・レバノン両政府間の政治的な取引を示しているのではないか。
昨夜、安倍首相は、河村建夫元官房長官や御手洗冨士夫キヤノン会長らとの会食の席で、ゴーン氏の件について「本来、日産の中で片付けてもらいたかった」と述べたという。この発言も、裏を返せば「日産の外側」、つまり日本政府が日産・ルノーの経営統合問題に介入してきたことを、内輪の会合で思わずこぼしてしまったとも受け取れる。
日本のマスコミのほとんどは「陰謀論で自分の罪をすり替えている」などとゴーン氏を批判しているが、ゴーン氏の主張を単なる陰謀論と斬って捨てることはできない。この事件の黒幕を徹底追及せねば、今後もグロテスクな“国策捜査”が繰り返されることになるだろう。
(編集部)
最終更新:2020.01.09 11:04