改めて言っておくが、戦時中の朝鮮人強制連行は、当事者の証言だけでなく、公文書を含んだ史料がいくつも残っている歴史的事実だ。官斡旋時代の朝鮮人総督府の官報や募集企業の文書などにも実態が〈強制供出〉であることを認める記述がある。
強制連行の実証的研究で知られる東京大学の外村大教授は、「特に90年代半ばからですね、史料の発掘が進み、いろんな話が出てきました。朝鮮人の待遇が日本人よりよかったとか、自ら望んで来た人がいたとか。いずれも事実の断片ではあるんですよ。じゃあ暴力的な連行や虐待は例外的だったかというと、それは違う」「事実というものは無限にあるものです。都合のいい事実だけをつなぎあわせれば別の歴史も生まれる。でも、それは『こうあってほしい』というゆがんだ願望や妄想に近い」と断じている(朝日新聞2015年4月17日インタビュー)。
いずれにしても、朝鮮人徴用工の強制連行の舞台を「明治日本の産業革命遺産」に登録しようと動いた勢力がいま、ネトウヨ並みの詐術を弄して、その徴用工の歴史を否定しにかかっているというのは偶然ではない。
安倍首相とその幼馴染、そしてお友だちの右派勢力が「明治産業革命遺産」の登録をごり押しした背景には、もともと、大日本帝国を美化する歴史修正の目的があった。ユネスコという国際機関に「世界遺産」と認めさせることでその歴史を正当化し、戦前の負の部分を相対化しようとしていたのだ。それは前述したように、徴用工問題で訴えを起こされている三菱重工業や新日鐵住金の顧問などが名前を連ねていることからも明らかだ。
そして、ここにきて徴用工判決で日本国内の韓国への反発が高まったことを逆に奇貨とし、徴用工問題の矮小化、封印、削除という露骨な動きを強め始めた。そういうことだろう。
まったく卑劣極まりないが、しかし、こうした動きは、今回のユネスコの「保全状況報告書」だけではない。たとえば、約6000から7000人の朝鮮人労働者が工事に従事したとされる長野県の「松代大本営」の地下壕をめぐっては、市が入り口の看板に「強制的に」と記していた部分にテープを貼って削除。群馬県の県立公園「群馬の森」では、朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑の設置更新を県が拒否。奈良県天理市でも、飛行場の建設にあたって朝鮮人の強制連行があったと記した説明板を市が撤去するなどの事例が相次いでいる。
安倍首相を筆頭とする歴史修正主義者たちは、負の歴史事実をなかったことにしようとする。その最終地点は、人間の生きた証そのものを記録や記憶から消してしまうことだ。このまま安倍政権の歴史修正主義を放置しておけば、この国はどんどんディストピア化してしまうだろう。
(編集部)
最終更新:2019.12.07 12:34