だが、今回の平成から令和への代替わりでは、儀式や「天皇陛下万歳」に関する議論はほとんど盛り上がらなかった。新聞やテレビなどのマスコミも、十分に国民に議論を喚起する役割を果たしたとは言い難い。安倍首相は「即位礼正殿の儀」を“平成時の先例踏襲”というかたちでおこなうことで、論争を避けた。そのなかで今回、日本会議らがバックにいる「国民祭典」で、不意打ち的に「天皇陛下万歳」の大連呼、エンドレス万歳が仕掛けられたのだ。
例の「国民祭典」では、名目のなかに「天皇皇后両陛下のご健康を祈念」「世界平和を願い」などと混ぜ込むことでカモフラージュしていたが、その意味合いはさらに戦前、戦中に近づいたと言えるだろう。
それどころか、司会の谷原章介がプログラム進行で口にしていた「聖寿万歳」という言葉は、「天子様のご寿命よ、永遠に」という意味で、完全に戦前に使われていた言い回しだ。たとえば、23歳で訓練中に行方不明となり殉職したとされる回天の特攻隊員は、遺書にこう書いている。
〈稔、皇国に生れてここに二十有四年。
選ばれて神潮隊員となり、更に選ばれて今、沖縄決戦に身を投ぜんとす。
光栄也。名誉也。真に男子の本懐たるを感ず。
遺すべきはすでに家に遺せり。(稔の心中、今更何の加ふべきものもなし。
唯々最后に、
聖寿萬歳を祈念し奉り、
皇国の必勝を祈るものなり。〉
多くの国民が自覚しないまま、この国は、安倍政権によって、少しずつ戦中時代のムードに引き戻されている。実際、ネトウヨたちは「即位礼正殿の儀」など代替わり儀式の中継を見なかった人々を「非国民」などと呼んで攻撃している。ひと昔前は右翼の語彙でしかなかった「反日」という言葉も、いつのまにか日常的にメディアやSNSで使われるようになった。安倍首相とその支持者たる右派は、自衛隊を正真正銘の“軍隊”に変える9条改憲へと突き進んでいる。
水木しげるは「戦争落語 天皇陛下バンザイ」をこう結んでいる。
〈ほんとうに国を守ろうとすると、それこそ“国が亡びるほど”の金がかかるから、世界中が仲よくするとか、世界中で核軍縮するとか、要するに“戦争のタネ”みたいなものをなるべく世界中におこさせなくするのも国防ということになり、とにかく前代未聞の複雑さだ。しかし、悪いこと(すなわち核戦争)がおきないとは誰もいいきれないことだから、このあたりで誰もが真面目に考えなればいけないことだと思う。〉
(宮島みつや)
最終更新:2019.11.16 08:19