しかし、狙いは座談会そのものよりSNSでの拡散(クチコミ)にあったようだ。電通の報告書を読むと、実は、この「ママインフルエンサー」らはInstagramやブログで座談会の模様等をポストしており、それが拡散されるところまでがセットだったことがわかる。
同資料には、ご丁寧にも複数のブログ投稿のスクリーンショットが掲載されている。そこには〈福島の放射能について話すことがタブーな雰囲気があるからこそ!!情報がアップデートされないのかな?〉〈要するに理解できていないから避けておこうって事なんですよね…〉などの文言があり、最終的に復興庁のポータルサイトに誘導する仕組みになっていた。なお、このポータルサイトも前述したように電通が担った事業だ。
広告だと悟られないよう行うPRは「ステマ」(ステルス・マーケティング)と呼ばれる。本サイトでも定期的に調査・報道してきたように、電力業界では、電事連(電気事業連合会)などがタレントや文化人を起用したお手盛りの座談会を行い、それをレポート風の記事にみせかけて新聞・雑誌に掲載するという“原発広告”が後を断たない。少なくとも、ネットの拡散力に長けた「ママインフルエンサー」の起用は、そうした“ステマまがい”の新たな形なのだろう。
また、この資料で気になるのは「風評払拭・リスコミ強化のためのメディアミックスによる情報発信に関する検討会」なる存在だ。第一回は2018年6月12日、第二回は同年9月6日に行われた。
「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」の有識者の一覧には、先日、福島県伊達市の住民の被曝線量を分析した論文について被曝線量を3分の1に少なく見積もっていたことを認めた早野龍五・東京大学名誉教授や、前述の“ママインフルエンサー座談会”などにも登場した開沼博氏のほか、「福島県クリエイティブディレクター」も務める有名クリエイターで東京芸術大学教授の箭内道彦氏ら、計10人の名前が並んでいる。
電通資料では〈各施策の実施にあたっては、有識者からなる検討会等を実施。検討会等に必要な作業、有識者への依頼、旅費・謝金の支払い等も行った〉と記されている。つまり、彼ら「有識者」にはギャラが発生していたようだ。本来、独立性を保持するべき学者までもが、ギャラの発生するプロモーションビジネスに組み込まれているというわけである。