沖縄防衛局が2011年に公表した環境影響評価調査では、オスの個体A、今回亡くなったおかあさんジュゴンの個体B、そして個体Bの子どもである個体Cと、3体のジュゴンが沖縄本島周辺で確認されている。「北限のジュゴンを見守る会」では、辺野古に近い嘉陽に出現していた個体Aを「嘉陽のAおじさん」、北部の古宇利島付近に出現していた個体Bを「古宇利のB子かあさん」、個体Bの子どもである個体Cを「Cちゃん」と呼んでいる。
桜井国俊・沖縄大学名誉教授のレポートによると、日本自然保護協会はこの「Cちゃん」が2014年5〜7月に辺野古に近い大浦湾の美謝川河口付近で約110本の食み跡を残していたと報告。〈美謝川の河口は大浦湾の辺野古側にあり、専門家たちは母親Bから親離れしつつあるCちゃんが自らのテリトリーを確立すべく海草藻場が最も豊富なこの水域に現れたとみていた〉という(「WEB RONZA」2018年11月21日付)。
だが、辺野古の新基地建設工事の進行によって、こうした状況に変化があらわれた。2014年8月から沖縄防衛局が海上ボーリング調査をはじめるようになると、辺野古崎付近の藻場ではジュゴンの食み跡が確認されなくなってしまった。「Cちゃん」が最後に嘉陽沖で観察されたのは、同年9月。その後、「B子かあさん」のいる古宇利島沖で確認されたが、それも2015年6月を最後に行方はわからなくなった。そして、「嘉陽のAおじさん」も、昨年9月以降、姿を消した。〈最多時には辺野古、嘉陽、安部で月に計120本見られた食み跡が、(昨年)12月と19年1月にはどの地点でも見つからなくなった〉という(琉球新報20日付)。
一体、「Cちゃん」と「Aおじさん」はどうしてしまったのか。「Aおじさん」について、沖縄防衛局は姿を消した時期の工事の騒音や震動はピーク時以下であるとして新基地建設工事の影響を否定しているが、一方、日本自然保護協会らの環境団体は、「Bかあさん」が亡くなる直前の今年3月5日に出した緊急声明で、〈新基地建設工事の影響を徐々に受け、行動範囲を変えていたが、個体Cは平成27年6月から避難し、個体Aも平成30年10月から工事区域周辺から避難するに至ったと考えるのが合理的である〉と言及していた。
さらに、日本自然保護協会が「Bかあさん」の死亡を受けて安倍首相をはじめとする関係閣僚に提出した意見書では、こう指摘している。
〈古宇利島周辺を主な生息域としている個体Bについては、西から東へと移動する埋立土砂の運搬船の影響を受ける可能性が指摘されてきた。記録を見ると平成20年度は個体Bは古宇利島を離れ、辺戸岬を周り西海岸安田沖にも移動している(沖縄防衛局、2009)。移動の際に土砂運搬船の影響を受ける可能性もあったことと思われる。〉
もちろん、「Bかあさん」の死因は解明されたわけではない。だが、新基地建設工事が、ジュゴンから餌場を奪った可能性は高いのだ。