しかし、この極右政治家にそんなまともな反論をしても、もう聞く耳をもたないだろう。そもそも杉田氏は“科研費反日バッシング”の急先鋒。こうした学者への攻撃の発端は産経新聞が2017年12月13日の「『徴用工』に注がれる科研費」なる記事だが、杉田氏は昨年2月26日の同委分科会でこの産経記事を引き合いに出し、「科研費を使って韓国の団体と一緒になって反日プロパガンダをやっている」と批判。その後も自身のTwitterやネット番組などで、大学教授の実名をあげながら「科研費が反日の人たちのところに使われている」と喧伝してきた。
学者の研究に対して「反日」などとレッテル貼りをし、助成金を出すなと恫喝して自粛させようとのやり方は、まさに戦前・戦中の言論弾圧さながらだ。たとえば、1937年の矢内原事件は、東京帝国大学教授の矢内原忠雄が雑誌「中央公論」で“国家が混迷するとき理想に照らして現実の政治を批判する必要性”を説いた論考が、原理日本社の蓑田胸喜ら右翼から糾弾され、結果、辞職に追い込まれた。蓑田は矢内原の言論活動を「侮日的」「抗日的」と繰り返し非難していた。
また、杉田氏はTwitterでも、科研費助成事業のデータベースのURLを貼り付けながら〈人名を検索すれば誰がどんな研究で幾ら貰ったかすぐわかります。「慰安婦」とか「徴用工」とか「フェミニズム」とか入れて検索もできます。ぜひ、やってみてください!〉と投稿。ジェンダー論を専門にする牟田和恵・大阪大学教授に噛みつき〈ねつ造はダメです。慰安婦問題は女性の人権問題ではありません〉〈国益に反する研究は自費でお願いいたします。学問の自由は大事ですが、我々の税金を反日活動に使われることに納得いかない〉などと攻撃していた。結果、牟田教授が所属する大阪大学にはクレームの電話が入るなど、バッシングに晒された。
杉田氏が煽動しているのは、政権が気に食わない学者たちを「反日」としてあぶりだし、締め上げようとする言論弾圧に他ならない。完全に頭の中が戦中状態だが、しかも呆れるのは、杉田氏の攻撃があまりに雑であり、ようは「左翼っぽい人」をやみくもに叩きまくって悦に入っているということだ。実際、杉田氏は山口二郎・法政大学教授を名指し、〈二〇一五年の安保法制反対活動で、「安倍は人間じゃない。たたき切ってやる」と国会前で豪語したような人なんですから〉などと言いながら、山口教授らの研究内容にはほとんど言及しないまま、科研費からの助成を批判している(「WiLL」2018年6月号/ワック、渡邉哲也との対談「血税は何に 研費の蜜を吸う反日研究者を許すな」)。