防衛省の高橋憲一事務次官(防衛省HPより)
朝日新聞1月26日付朝刊の4面に掲載された小さな記事が、一部で波紋を広げている。タイトルはこうだ。
〈「韓国疲れだ。日本を米西海岸沖に移したい」 防衛省幹部ぼやき〉
記事は、海上自衛隊の哨戒機が韓国の軍艦艇からレーダー照射を受けたとされる問題で〈防衛省内で韓国に対する不満が高まっている〉と伝えるもの。この間、防衛省や官邸は、新聞やテレビの担当記者たちに「韓国政府はけしからん」との声を何度も漏らして記事を書かせてきた。朝日の記事もその一種と思われるのだが、注目したいのは記事のなかで、匿名の「防衛省幹部」がとんでもないことを口走っていたからだ。ともあれ、引用しよう。
〈防衛省幹部は25日、「韓国疲れだ。嫌だと思ってもお隣さん。日本列島を(米西海岸の)カリフォルニア沖に移したい」とぼやき、「そうすれば北朝鮮ともさよならできる」と加えた。〉
日本列島をアメリカの西海岸に移したい? 意味がわからないが、朝日の記事はこう続く。
〈この幹部はさらに「私は反対だが」と前置きしつつ、日本と米国が同じ国になればいいという考えにも言及。「(約3億2千万人の米国に対して日本の人口は)1億3千万人だから大統領選は我々が取る」「47都道府県を(別々の)州にすれば、日系人もいるからうまくいけば『日本党』で上院で多数派になる」などと想像を膨らませた。〉
……って、おいおい、ちょっと待ってくれ。「日本党」とかちょっとツッコミどころが多すぎて困るが、そもそも“日本と米国が同じ国になる”というのは、現実には “日本がアメリカの第51番目の州になる”ということだ。いったい、どこまで対米従属の奴隷根性が染み付いているのか。控えめに言って、どうかしているだろう。
いま、Twitterではこの記事に対して、〈超くだらない記事ですね〉〈学級新聞よりレベルが低い〉〈こんな記事書くから、親の代から購読続けた朝日新聞辞めたんですよ〉というような、朝日新聞への批判的反応が目立つ。たしかに〈ただ、「でも、できないからしょうがない。(朝鮮半島と)好きでも嫌いでも、つき合っていくしかない」とも語った〉というヘイトまがいのコメントをなんの批判的論評もないまま掲載するこの記事は、一読して何が言いたいのかわからないし、なんのつもりで報じているのかが疑問に思われても仕方ないかもしれない。
しかしコレ、本当に「くだらない」とか「レベルが低い」で済ませてもいいものだろうか。というのも、朝日新聞は匿名で「防衛省幹部」としているが、実は、こんな頭の悪い妄想を開陳しているのは、なんと、防衛省の高橋憲一事務次官だったからである。
「たしかに、朝日が報じたのは、25日の番記者懇での高橋次官の発言のようですね。毎週金曜日に各社の防衛省担当者が次官を囲む懇談会があるんですが、そのなかで高橋次官が冗談っぽく言っていたことだそうです」(全国紙社会部記者)
冗談めいた口調だったとはいえ、防衛省の事務方トップが“日本がアメリカの一部になる”という考え方を記者の前で堂々と口にしているという事実を、軽く見るべきではないだろう。考え方によっては、これは日本の防衛当局、ひいては安倍政権の意識に直結しているかもしれないからだ。
実際、これまで安倍政権はとことんアメリカの言いなりになってきた。沖縄県民の反対を押し切って強行している辺野古の新基地建設は言うまでもなく、2015年夏に成立した安保法制にしても、安倍首相はその年の4月の米議会上下両院合同会議での演説で、まだ国会での議論すら始まっていないのに勝手に「この夏までに必ず実現する」と約束していた。