政権に対する忖度としか思えないが、さらに相澤氏は、局内上層部からの“圧力”を赤裸々に明かしている。たとえば、昨年7月26日の『NHKニュース7』で報じられた相澤記者のスクープ。これは、近畿財務局の担当者が森友側に、国有地の購入価格について「いくらまでなら支払えるか」と、購入可能な金額の上限を聞き出していた、という事実を伝える内容。それまで「森友側との事前交渉は一切なかった」と強弁してきた財務省のウソ、佐川理財局長(当時)の虚偽答弁を暴く特ダネで、すべての大手マスコミが後追いに走った。しかし、その渾身のスクープ当日の夜、NHK局内では──。
〈ところがその日の夜、異変が起きた。小池報道局長が大阪のA報道部長の携帯に直接電話してきたのだ。私はその時、たまたま大阪報道部のフロアで部長と一緒にいたので、すぐ横でそれを見ていた。報道局長の声は、私にも聞こえるほどの大きさだ。「私は聞いてない」「なぜ出したんだ」という怒りの声。〉(前掲書)
この「小池報道局長」というのは、政治部出身で安倍官邸とも強いパイプを持つとされる小池英夫氏のこと。国会でも取り上げられたように、森友問題関連のニュースで現場に細かく指示を出しているのは周知のとおりで、局内ではその頭文字から「Kアラート」なる異名がついている。相澤氏の著書によれば、小池報道局長からの大阪の報道部長への“怒りの電話”は、いったん切れてもなんども繰り返しかけてきたという。
〈最後に電話を切ったA報道部長は、苦笑いしながら言った。
「あなたの将来はないと思え、と言われちゃいましたよ」
その瞬間、私は、それは私のことだ、と悟った。翌年6月の次の人事異動で、何かあるに違いない……。〉(前掲書)
さらに、8億円値引きの根拠としたゴミ撤去費用をめぐり、財務省理財局職員が森友側に「トラック何千台も使ってゴミを撤去したと言ってほしい」との“口裏合わせ”を求めていたことをすっぱ抜いた特ダネも、なかなか放送させてもらえなかったという。財務省がいかに“森友ありき”で行政を歪めたかを示す決定的なスクープのひとつで、今年4月の『ニュース7』で報じられたのだが、このときもあわや“見送り”になりかけていたというのだ。
そもそも相澤記者は、このネタをまず、所属する大阪のデスクではなく、森友問題の取材で協力してきた東京社会部の「Xデスク」と相談。するとXデスクは「大阪のデスクに言ったらすぐに(小池)報道局長に伝わってしまう。そうなると、なんやかんやと介入されてネタを潰されてしまいます」という。そこで、Xデスクの上司である「K社会部長」が小池報道局長と駆け引きをしつつ、相澤氏は取材を続けることになった。
その後、相澤記者は完全な裏取りを成し遂げ、あとは4月4日の『ニュース7』と、同日に森友問題の特集を予定していた『クローズアップ現代+』の放送を待つ段階だった。ところが、放送予定当日の夕方、Xデスクから「放送が出せないかもしれません」という焦りの電話がかかってきたのだというのだ。