実際、今上天皇には苦い経験がある。2013年4月28日に行われた「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」でのことだ。4月28日は1952年にサンフランシスコ講和条約が発効し、本土がアメリカの占領から独立した日。第二次安倍政権はこの日を「主権回復の日」と位置付け、政府主催で初めて式典を開き、天皇と皇后を出席させた。
式典は極めて復古的な、右翼色の強いものだった。当日、菅義偉官房長官が閉式の辞を述べ、天皇・皇后が退席しようとしたとき、突然、会場の出席者らが両手を挙げて「天皇陛下万歳!」と叫んだのである。安倍首相らも壇上でこれに続き、高らかに「天皇陛下万歳」を三唱。天皇と皇后は、足を止め、会場をちらりと見やり、わずかに会釈してから会場を去ったが、その表情は固まったままだった。
実は、この式典の開催は、自民党が野党時代から公約にかかげるなど、安倍首相の強いこだわりがあった。しかし、天皇・皇后は事前段階から周辺に拒絶感を吐露していたといわれている。実際、2016年12月24日付の毎日新聞朝刊記事によれば、〈陛下は、式典への出席を求める政府側の事前説明に対し、「その当時、沖縄の主権はまだ回復されていません」と指摘されていた〉という。
こうしたことも含めて考えれば、やはり、今回の「明治150年」政府式典を欠席したのは、明治回帰のキャンペーンを張る安倍首相の真の目論見や、その歪さを、天皇が見抜いていたことの証左と言えるのではないか。
しかし、それでも安倍政権は、天皇の存在を自らの復古的な価値観に利用し続けるらしい。実際、来年2月に政府主催で開かれる「天皇陛下在位30年記念式典」について、安倍首相を委員長とする式典委員会の今月19日に行われた初会合では、式典当日に公共機関や学校、会社などで日の丸を掲揚するよう要望する案が示されたという。
だが、皇室を国民支配の道具にしょうというこうした動きに抵抗しているのは、共産党などの少数野党をのぞけば、当の天皇皇后夫妻しかいないというのが現状になっている。
天皇と皇后が退位すれば、安倍政権の動きは、さらにエスカレートしていくだろう。新天皇夫妻はその動きに抗することができるのか。「平成」の終わりとともに、150年前の国家観や人権感覚に逆戻りさせるようなことを許してはならない。
(編集部)
最終更新:2018.10.25 10:59