そして、このタイミングで菅官房長官がわざわざ産経新聞の独占インタビューで「携帯料金4割値下げ」をアピールした理由が、来年の参院選にあることは明々白々だ。
来年の参院選の実施で安倍自民党がもっとも不安視しているのは、先日発表した来年10月の消費税引き上げだ。そこで官邸としては、閣議表明から間もないこのタイミングで、“消費税は増税するが、同じタイミングで携帯料金は値下げする”とアピールしておきたかったのだろう。しかも、楽天が携帯キャリアに参入しサービスを開始する時期は、もともと安倍首相が宣言していた消費税増税と同じ来年10月。たんにタイミングが重なっただけなのに、それを利用したのだ。
何度でも言うが、国に値下げの権限はない。値下げを実現させるには、大手キャリアではなく格安スマートフォン事業者のシェア拡大なども必要になってくるが、菅官房長官の話は、たまたま来年10月に楽天が携帯キャリアに新規参入するというだけでしかなく、4割値下げの根拠はないに等しいのだ。
携帯料金値下げという、根拠がない、さらには値下げが実現してもそれは政府の手柄でもない問題を“アメ”として安倍政権がもち出すのは、これがはじめてではない。2015年にも安倍首相が「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題だ」などと言い出し、料金値下げに向けて検討をおこなうよう高市早苗総務相(当時)に指示したことがあったからだ。しかし、効果は限定的で、料金水準の引き下げにまではいたらなかった。ちなみに安倍首相が携帯料金の値下げをぶち上げたのは、安倍政権が安保法制を参院で強行採決する直前のこと。このときも、内閣支持率の底上げを狙ったとしか思えないタイミングだったのだ。
多くの国民が納得していない消費税の増税を相殺しようとして国に権限のない携帯料金の値引きをアピールするとは国民を舐めるにもほどがあるが、そもそも、そんな姑息かつ根拠のない嘘をつく前に、根本的な問題として、消費税の引き上げ自体を見直すべきだろう。