いずれにしても、大坂なおみ選手の母親のエピソードから改めて確認しておかなくてはいけないのは、世界中の多くの国と同様に、いやそれ以上に、日本にも人種差別は歴然と存在するという事実である。
海外の差別問題が報じられた際などに、よく「日本には人種差別はない」などと他人事のように語る人が多いが、そんなことはまったくないのだ。
実際に、かつて受けた差別を告白するアフリカ系ハーフは多い。
たとえば、トリニダード・トバゴ人の祖父をもつ歌手の青山テルマは、17年2月に放送された『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ)で、幼稚園のときに受けたいじめをこのように語っていた。
「小さいときはもう、辛かったけどね。『あの子、肌の色が違う!』みたいな。『何だ、アイツ』みたいな。『黒人だ!』みたいなとかさ。なんか、『ゴリラ! ゴリラ!』とか、超近所の子に言われたりとかさ。『テルマって黒人だから将来心配だよね』とか。『ホント、テルマちゃんってブサイクだよね』とか普通に言われてた」
いくら子どもの言うこととはいえ、あまりにひどい差別だろう。そしてもちろん、これは単なる子どもの戯れ言などではなく、日本社会の差別意識が反映されたものであることは言うまでもない。だから、このような構図は、ハーフやクォーターの子どもたちが大人になってからも続くのだ。
そういった差別の構図は、たとえば、職を探すときなどに表面化する。お笑いコンビ・マテンロウのアントニーは、アフリカ系アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれたハーフだが、「女性自身」(光文社)14年4月15日号に掲載された、植野行雄(デニス)と春香クリスティーンとのハーフ芸能人座談会のなかでこのように語っていた。
「ハーフって名前で驚かれるよね。アルバイト応募の電話をかけて『堀田世紀です』って、流ちょうな日本語で言っても、相手は何も感じない。ところが、いざ面接に行くと、キョトンとされるの。しかも、受からない!」
また、アントニーは同座談会のなかで、恋愛をめぐる話もこのように語っている。
「もし僕らが英語を話せたら、恋愛の可能性も無限に広がってたと思わない? この小さな島国で生まれ育って、日本人と恋愛しようとしても、相思相愛になる確率ってとんでもなく低い」
ここでアントニーは「恋愛」とだけ言っているが、この発言の言外に、結婚しようとした際に婚約者の親族との間に生じる軋轢やそもそも外国人(のように見える外見)を恋愛対象から除外する日本人の差別意識を感じていることは間違いないだろう。実際、それは大坂なおみ選手の両親が受けた境遇である。