NHK『政治マガジン』HP
〈「あの人の体力と精神力はどうなっているのか」
菅義偉(すが・よしひで)69歳。
タフな政治家がそろう永田町でも、驚きをもって語られる。
いまでは数少ない、たたき上げの政治家。酒もたばこもやらない姿は、まるで修行僧。〉
こんな書き出しで始まる政治コラムが7月25日に掲載され、永田町でちょっとした話題になっている。見るからに提灯記事とおぼしき書き出し。掲載したのは、菅氏の後援会誌でも、自民党の広報誌でもなければ政府御用達の産経新聞でもない。国民から受信料を徴収するこの国の公共放送「NHK」だというから、驚くほかない。
実は、NHK政治部はこのほどウェブサイト「政治マガジン」なるものを立ち上げた。政治部員約60人が総力をあげて手がけているという触れ込みで、毎週水曜日に最新号が掲載される。まるで週刊誌の中吊り広告のような目次ページが目を引く体裁だ。
「テレビでは伝えきれない政治の舞台裏や隠れたエピソード」などとうたうが、実際のところ、安倍首相の番記者が毎日の動静をまとめて垂れ流すものや、著名な政治家のランチタイムなどどうでもよい日常生活をウオッチした提灯記事のラインナップだ。
なかでも、菅氏の記事は鼻持ちならない大提灯記事に仕上がっている。その記事の中身をみてみよう。
タイトルは「菅義偉、彼は何を狙うのか」。コラムでは、官房長官在任期間歴代1位となった菅氏について「官房長官の日程は、ほとんど公表されない」と前置きしながら、密着取材で明らかになったという「官房長官動静」を公開している。こんなシーンから始まる。
〈5:00 起床。主要新聞すべてに目を通し、6時のNHKニュースもチェック。読売新聞に掲載される「人生案内(読者の悩みに有識者が答える)」は必ず読むという。
6:40 毎朝40分のウォーキング。〉
このウォーキングは菅氏の写真入り。長袖ワイシャツにスーツのズボン姿という、どうみてもよそ行きの装いになっているのが不自然だ。
このあとも、〈7:30 ホテルで朝食〉では与野党の政治家、財界人、学者、官僚と会食している様子や、〈10:40 午前の記者会見に向けた打ち合わせ〉では秘書官のレクを受ける様子を写真入りで掲載している。
しかし、そのあとの〈11:00 午前の記者会見〉は〈「何回もやっているが、毎回、緊張感がある」〉との菅氏のコメントがあるだけで、肝心の仕事内容については何も触れられていない。当然のことだが、今やネット中継で名物になっている東京新聞の望月衣塑子記者による追及シーンは一切触れられていない。
代わりに、菅氏が昼食のそばを5分でかき込むシーンや、甘党の菅氏が好物のパンケーキを食べる様子など、どうでもいい内容がダラダラと続く。
だが、後半にさしかかると、提灯記事の真骨頂が発揮される。書き出しは、〈民意とは相いれないとも言える政策を推し進める一面も兼ね備えている。その代表例が、沖縄県のアメリカ軍普天間基地の移設計画だ。沖縄では根強い反対論があり、移設計画に反対を掲げた翁長知事もおよそ4年前に当選した〉と批判的なポーズをとるのだが、最後はその行動をこう解説してみせるのだ。
〈しかし、その直後の記者会見でも、菅氏は微動だにしなかった。移設計画を白紙に戻せば、長らく日米両政府間でトゲとなってきた問題が漂流しかねず、批判を受けても、長い目で見て基地の返還が進めば、県民の利益につながるはずだという判断からだと見られる〉
あまりに無節操な持ち上げぶりだが、そのあとも、公明党や支持母体の創価学会と太いパイプを持っていること、自民党内の中堅・若手議員との勉強会などを重ね、75人の無派閥議員を束ねる一大勢力を築いていることなど、菅氏のアピールが続く。この内容の提灯ぶりは、いくら大物政治家に弱いNHKとはいえ、前代未聞だろう。