矢貫氏がタクシー運転手となったのは、2013年5月。ここで彼は1カ月の水揚げ(売り上げ)50万円という目標を立てる。
その結果は惨憺たるものだった。水揚げの総額は40万3230円で、この金額だと50%が運転手の取り分となる。結果、給料の総額は19万4010円で、手取りにして15万8156円しかなかったというのだ。
タクシー運転手は多くの客を乗せれば、それだけ収入も増える。もちろん、なかには多く稼いでいる運転手もいるだろう。しかし、誰もが簡単に稼げるわけもなく、手取り15万円程度で苦しい思いをしている運転手も多いのだ。
タクシー運転手の厳しさは安い給料だけではない。さらに、「運転手負担金」なるものが運転手にのしかかってくる。矢貫氏の給料明細にはこんな記載があったという。
「Gカラー控除、3450円」「無線控除、1050円」「クレジット、3110円」
これらが「運転手負担金」というもので、それらが給料から引かれるのだ。
まず「Gカラー控除」とは何か。これは、黒塗りのハイグレード車で仕事をした際、1回の業務につき150円を運転手が負担するというもの。負担の根拠は「ハイグレード車の車両価格がスタンダード車よりも高いので、その差額の一部を運転手が負担する」だという。会社が所有しているはずの車の代金を、なぜだか運転手が負担しているのだ。
「無線控除」は、「無線配車を受けたら、その回数にかかわらず一業務につき300円」というもの。これもまた名目としては無線設備の費用の一部を運転手が負担していることとなる。
そして「クレジット」は、クレジットカードでの支払いの5%を手数料として負担するというものだ。クレジット会社に支払う手数料は3%なので、運転手は2%を余計に払っていることとなる。そもそもクレジットの手数料を運転手が負担するのもおかしいが、さらに2%を上乗せし、ここでもまた設備費用を負担させるというのだ。
普通の会社なら、設備投資を社員に負担させるなどということはあまり聞かないが、タクシー業界ではこれが当たり前となっている。タクシー業界がいかに運転手に負荷をかけたうえで成立しているかがわかる。
そんな厳しい状況のなか、タクシー運転手たちはできるだけ多くの客を乗せようと争奪戦を繰り返すこととなる。これがタクシー運転手たちを命の危険に晒している。
しかも、乗客から会社にクレームを入れられれば、ドライバーはペナルティを課されたり、解雇されたり契約を切られたりすることもある。ドライバーの顔やナンバーが特定できる堀江の件も、ドライバーに非があったかどうか関係なく、会社からドライバーに何らかのペナルティが課されてしまう可能性もある。
実際、堀江と同種のクレームがタクシー会社などに寄せられることは多いらしく、それがさらにタクシー運転手の環境を厳しいものにしていることは言うまでもない。
極めて弱い立場に置かれ厳しい状況にあるタクシー運転手を、さらに、著名人が公共の電波やSNSで扇動しながら寄ってたかって叩く構図は、醜いと言わざるを得ないし、弱者の生活の糧を奪う可能性もある卑劣な行為であることを自覚すべきだろう。
(編集部)
最終更新:2018.07.26 12:34