だが、こうした的外れな誹謗中傷に対しては、是枝監督自身が6月25日付朝日新聞に掲載されたインタビューで、真っ向から反論している。
「芸術への助成を“国の施し”と考える風潮は映画に限ったことじゃない。大学への科研費もそうだし、生活保護世帯への攻撃も同じです。本来、国民の権利のはずですよね」
「補助金をもらって政府を批判するのは真っ当な態度なんだ、という欧州的な価値観を日本にも定着させたい。いま、僕みたいなことをしたら、たたかれることは分かっています。でも、振る舞いとして続けていかないと。公金を入れると公権力に従わねばならない、ということになったら文化は死にますよ」
これはまさに正論だろう。そもそも、民主主義の国で行われている文化事業への助成は、表現や芸術、学問の自由を保護するためのものであって、助成金を受け取ったからといって、国に表現が支配されるということではまったくない。金をやるから政府の言う通りつくれ、ということがまかりとおれば、それはまさにソ連やナチスドイツ、戦前戦中の日本における国策映画と変わらなくなってしまう。
助成金を国からの施しと考えるような根性にはうんざりさせられるが、今回の『焼肉ドラゴン』のケースはもっとひどい。ようするに、連中は在日コリアンを描いた映画だから、補助金を出すのはけしからん!と言っているのだ。一体どこまで、グロテスクな差別感情に囚われているのか。
韓国では、昨年、文在寅大統領が権力の介入で存続が危ぶまれていた釜山映画祭を訪れ「支援はするが、口は出さない」と発言した。そのとき、是枝監督はこの文大統領の行動を高く評価し、〈つまり助成金を国からの施しと考えるか?税金の再配分である文化予算は私たちの側に決定権があると考えるか?そして、今回大統領は後者を支持した。映画祭は文化の独立を勝ち取った〉〈国と関係のない自由の素晴らしさとは別に、きちんと働きかけて文化の独立を理解させ、そのことを理解した大統領がわざわざ映画祭に足を運んで介入しないことを宣言する。そのような態度を社会に見せることが政治も映画祭も社会も成熟させていく、という素晴らしさなんです〉とツイートしていた。
一方、日本の動きはまったく逆だ。安倍政権によって、極右思想の押し付けがますますひどくなり、国策映画製作の動きまで出てきている。そして、安倍応援団やネトウヨは文化助成の対象にまで排外主義をもち出し、攻撃をはじめた。是枝監督はカンヌ後の自身の炎上について、Yahoo!ニュースのインタビューでこんなセリフを語っている。
「同調圧力の強い国の中で、多様性の大事さを訴えていくのはすごく難しい」
(編集部)
最終更新:2018.07.02 11:22