戦争に関わる者が被害者にもなり、加害者にもなるということを描いた反戦映画の歴史的名作といえば、小林正樹監督『人間の條件』(1959年〜1961年)が挙げられる。満州が舞台となっているという点も、これから是枝監督がつくろうとしている作品と似たものを感じさせる。
しかし、近年そのような戦争映画はほとんどつくられていない。本サイトでもお伝えしたが、亡くなった高畑勲監督も生前、「じつは『おもひでぽろぽろ』をつくる前に、しかたしんさん原作の『国境』をもとにして、日本による中国への侵略戦争、加害責任を問う企画を進めていたのです。残念ながら、天安門事件の影響で企画が流れたのですが、日本が他国に対してやってきたことをきちんと見つめなければ世界の人々と本当に手をつなぐことはできないと思っています」と明かしたことがあった。しかし残念ながら、その思いがかなうことはなかった。
是枝監督の企画が実現すれば、戦争を描いた近年の日本映画のなかではかなり貴重なものとなるだろう。
ただ、ひとつ気になるのが、現在の是枝作品の体制でその映画づくりが可能なのかということだ。というのも、ここ数年の彼の作品にお金を出しているのはフジテレビだからだ。『そして父になる』(13年)、『海街diary』(15年)、『海よりもまだ深く』(16年)、『三度目の殺人』(17年)と、是枝監督の近作には一つの例外もなくフジテレビが製作に名を連ね、長年出資してきた。もちろん、今回の『万引き家族』も同様だ。歴史修正主義を広める旗振り役を担ってきたフジサンケイグループが日本の戦争加害を描く映画に金を出すのだろうか。
とはいえ、いまや是枝監督はパルムドール受賞監督である。フジテレビが金を出さずとも、他に支援を名乗り出る企業はあるだろうし、海外の企業が製作に名乗り出る可能性もある。そういう意味でも、今回のパルムドール受賞は是枝監督のこれからの映画人生において、日本の映画界にとっても、かなり重要なトピックであるともいえる。
しかし、目を日本国内の状況に向けると、『万引き家族』パルムドール受賞をめぐって、思わず頭を抱えたくなるような現象が起きている。普段から「日本スゴイ」思想を撒き散らしているネトウヨたちが、『万引き家族』に対して「日本に貧困が広まっているように見せ、この国を貶める映画だ」「カンヌは反日」「犯罪を描くなんて何事だ。犯罪教唆だ、R指定にしろ」などと喧伝しているのだ。
そもそも、映画も観ないで何を言っているんだという感じであるが(映画は6月8日公開)、『万引き家族』という映画は、まさしく彼らのような人間へのアンチテーゼとしてつくられた映画である。この映画を通して是枝監督が伝えたかったことはなんだったのか。後日、改めてお伝えしたい。
(編集部)
最終更新:2018.05.28 04:42