彼女は十代の頃から社会的な問題意識を強く抱えていた。それは思索のみにとどまらず行動を伴うものであり、「16歳の誕生日は六ヶ所村で過ごしてて」との驚くべき思春期の思い出を披露しつつ、そのときに感じた思いをこのように語っている。
「ピースボートの事務所で会った人たちと映画『六ヶ所村ラプソディー』を観て、夏休みに六ヶ所村に行ってみようって。ただ、行っても別に何もできることはないし、見て感じるしかないじゃないですか。でも再処理工場の近くで畑をやってる人たちが印象的だったな。ものすごい罪深いものを抱えながら、でもポジティブで、もうどっか切り離してるような感じもあって」
そもそもコムアイはミュージシャンになる気があったわけではない。しかし、そんな彼女と現在のマネージャーの出会いが運命を変えることになる。コムアイが自身の抱える社会的な問題意識を語ったところ、「だったら音楽家になって発信したほうが一番世の中に広く伝わりやすいし、言っても悪く見られない」と、ミュージシャンになることを薦められ、現在にいたるキャリアがスタートするのだ。
自身が発信したいメッセージをより広く届けるために、敢えてカルチャー的なクリエイティブを突き詰める方向に進む──そのような道を選んだ背景には、もうひとつこんな出来事もあった。
「クイック・ジャパン」(太田出版)16年3月号にて、コムアイは奥田氏と対談で共演しているのだが、その記事ではこんなエピソードを語っている。彼女は原水爆禁止日本国民会議(原水禁)のデモに参加した際、そこで配られたビラを見てデザイン的な配慮がまったくなされていないことを感じ、「これはなにも伝わらない」と感じたというのだ。
「そこで配られているビラに衝撃を受けて怖くなかったんです。これを街の人に配る自分の無力さを感じた。ピンク色の紙に、筆ペンでびっしり意味不明の文字が書いてあって、「これはなにも伝わらない」って」
「この状態を変えるには、自分がスキルを高めるか、有名になるしかないって。だから、そこで1回デモとは距離を置こうと」
現在の日本の音楽業界において、社会的なイシューに踏み込んでいく若手ミュージシャンは非常に少ない。ベテランになれば、吉川晃司、長渕剛、佐野元春など、まだまだ現役で活躍する歌手が複数存在するが、20〜30代となると「キョウボウザイ」で共謀罪強行採決にいたるまでの安倍政権の欺瞞を突いたSKY-HI(AAAの日高光啓)など数えるほどしかいない。
そんなコムアイだが、ここ最近はインタビューで政治や社会問題に関する話題を積極的にはしなくなってきていた。前述した〈FUCK共謀罪〉のツイートはむしろ珍しいケースであるといえる。