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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第10号 

巧妙化する悪質リストラ手法に気をつけろ! 突然の出向先は追い出し部屋、業務は自分の転職先探し

 使用者は、そのような労働者の意向、本心を当然のごとく認識しながらも、自らのリストラ計画、人員削減計画を推進するために当該労働者を退職にもっていくために様々な言辞を用いて「説得」活動を行う。「説得」の過程で当該労働者は、自ら会社に必要とされていない人間であることに絶望し、なんとか自らの労働者、社会人としての自尊心を維持するためにも、最終的には「自らの意思によって」、当該人事異動を受け入れるというかたちをとることを選択するようになる。これは人間の心理上、当然の反応である。

 人は、他人から強制されたことよりも、自らの意思で決めたことを行うほうが心理的な抵抗も少なくなるし、精神的な負担も生じなくなるからである。しかし、このことは、当該労働者が、本心から納得して応じたことを意味しない。できることなら会社に残って業務を行いたいが、やむを得ず、仕方なく応じているのが実態であり、本当のところは、できることなら応じたくないと考えるのが当該労働者の通常の心理である。

 その結果、退職勧奨を受けた労働者が自ら自発的に転職先を探し自ら退職を目指した活動を「業務」として行う、という状態が完成する。

 これはリストラを行いたい企業側にとっては、法的に違法、無効と評価される可能性が大きい解雇や露骨な嫌がらせを伴う退職強要を行うことなく、不要と判断した労働者を退職させることが可能となる。

 Aさんは、出向命令が無効であることの確認を求めて会社を相手に提訴をした。あわせて、このような「追い出し部屋」的な出向の受け入れを行う出向先の会社に対しても損害賠償を求めて提訴した。裁判の結果、会社との関係では和解による解決を選択し、Aさんは円満に退職をすることになった。出向先の会社に対する損害賠償請求は最高裁まで争ったが、残念ながらAさんの敗訴に終わってしまった。

 しかし、裁判所は、出向先が不法行為に基づく損害賠償義務を負わないと判断しただけであり、決してこのような出向を正当化したわけではない。出向を伴わない「追い出し部屋」が違法であることは多くの裁判例が認めるところである。今後、同種のケースで出向命令自体が無効であるとの裁判所の判断が出される可能性は充分にある。

 労働者は、会社において何か利益になることを実現するために働いているのであり、自分の転職先を行うことが会社での「業務」であるなどといって、労働者に対して自分自身のクビを締めさせるような行為を会社が行うことは許されないはずである。

 大した理由もなく安易に行われる解雇が許されないのはもちろんであるが、このような形で外形上は労働者の自発的な退職を装った巧妙なリストラ手法にも注意する必要がある。

【関連条文】

労働契約法
(出向)
第十四条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

(戸舘圭之/戸舘圭之法律事務所 http://www.todatelaw.jp

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2018.07.03 11:07

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