そもそも、農水省はさらっと「韓国の輸出量を日本産に代替」と言っているが、2015年の韓国のイチゴ輸出量約4000トンに対し、日本のイチゴ輸出量がどれだけが読者諸賢はご存知だろうか。農林水産省の「平成27年農林水産物・食品の輸出実績」によれば、408トンである。実に10分の1だ。
仮に農水省のロジックで「韓国の輸出量を日本産に代替」したら、2015年の日本のイチゴ輸出額は8.5億円だからその10倍の85億円に膨れ上がる。差し引き76.5億円が2015年の1年間での「機会の損失」ということになるだろう。が、現実世界がそんな単純でないことは小学生だって知っている。まさに、捕らぬ狸の皮算用というやつだ。
つまるところ、農水省が出した「220億円の損失」なる数字は、現在、品種改良と国家の支援で輸出を伸ばしている韓国産イチゴが“もしも日本産だったら”というドリーミーな試算、それ以上でもそれ以下でもないだろう。しかも重要なのは、農水省がはじき出したのは、極めて極端な想定のもとで「可能性」として導いた「機会の損失」でしかなく、当たり前だが、現実に日本のイチゴ農業が「220億円」もの巨額被害を被ったという事実はない。
しかし、日本のメディアは右派を中心にこの「220億円の損失」を連呼し、韓国バッシングに明け暮れ、農業の営みを理解しないネトウヨがまたぞろ「泥棒国家」などと韓国ヘイトをがなり立てているというわけだ。もはやギャグか何かとしか思えない。
もう一度言うが、たしかに約20年前に日本産のイチゴが韓国へ流出した経緯やそれにまつわるトラブルについては、いろいろと韓国の当事者側に倫理的な問題があったかもしれない(ただし、当時の関連国際条約=UPOV条約を考えても違法ではなかったとの指摘もある)。しかし、品種改良の努力と国が主導する農業政策が奏効し、輸出を急速に増やした韓国産イチゴという現実を直視せず、「220億円の損失」なるドリーミーな試算に飛びついて「パクリ」だのとヒステリックに叫ぶのは、端的に言って醜悪であるし、農業全体をバカにしている。
というか、ネトウヨらは韓国が国際的に普及した文化の起源を主張する行為を「ウリジナル」と言って罵倒しているが、韓国で開発されたイチゴを「おいしい」とほころぶ選手を見て「本当は日本産だから当然!」などと攻撃するのはなんなのか。もはや海外から「“オレ”ジナル」とバカにされても仕方がなかろう。それが偏狭なナショナリズムの発露であれなんであれ、いずれにせよ、恥ずかしいことこの上ない。
(編集部)
最終更新:2018.03.07 04:59