私は、彼女の代理人として、解雇の無効と未払いの残業代等の請求を行う訴訟を提起した。解雇については、「自己都合退職で間違いない」という内容の書面を取られていたため、正直旗色が悪かったが、時間外労働については勝訴が明らかだった。
しかし、会社は時間外労働の存在について、「否認する」のではなく、あくまで「争う」のであった。「否認する」というのであればわかる。事実を否定することなので、「そんなに働かせていない」「それは勝手に休まなかっただけだ」などなど、よくある話である。しかし、この会社は違った。「争う」のである。働かせていたという事実は認めたうえで、「それは時間外労働ではない」と主張してきたのである。
私にとっては本当に理解不能で、期日のたびに、「自分の労働基準法の知識は何か間違えているのだろうか」と不安にもなった。
会社元代表者に対する尋問で明らかになった実態と、前提となる彼らの労働基準法の理解は以下のようなものだ。(なお、「元」代表者としているのにも理由がある。この会社は、訴訟を起こされるや、会社を清算しており、依頼者が働いていた当時の代表者は「元」代表者であり、「現」清算人だったのである。
尋問で明らかになったことではあるが、まったく同じ場所で、同じ名前の美容室を、同じ従業員を同じ条件で雇い続けており、このためだけの清算であることも明らかだった。)
「有休与えてますよ!週に1回!」
定休日に休ませることは有給休暇の取得に当たる。らしい。
「36協定って何ですか。そんなのありませんよ。」
36協定は結んでいない。むしろそんなものの存在は知らない。朝9時から夜8時までが所定労働時間なので、それを超えない限りは時間外労働ではない。らしい。
気分良く反対尋問をキメたものの、会社元代表者において、何を自分がしゃべったのかまったく自覚がない様子だったので、若干爽快度が低かったということは、依頼者には秘密である。