実は、三浦氏が根拠にしたと思しき記事が、阪神大震災から12年も経った後に読売新聞に掲載されていた。
2007年1月19日付の読売新聞朝刊の連載「核の脅威 20XX年 北朝鮮が…」3回目の「重要施設を警備せよ」という記事に、こんな記述があるのだ。
〈日本に長年潜入中の休眠工作員(スリーパー)もいる。政府関係者によると、阪神大震災の時、ある被災地の瓦礫から、工作員のものと見られる迫撃砲などの武器が発見されたという〉
記事自体は迫撃砲発見がメインではなく、ほんの数行、こう書いてあるだけなのだが、おそらく三浦氏はこの読売報道をさして〈公開情報〉と言っているのだろう。というのも、新聞記事検索の範囲をデータベース上の全期間に拡げて調べたが、阪神大震災で北朝鮮工作員の「迫撃砲」が発見されたという新聞報道は後にも先にもこの読売記事しか見つからなかったからだ。
いや、新聞だけではない。公安プロパガンダの真偽不明な情報が大好きな週刊誌でも「迫撃砲発見」の記事は見つけることができなかった(週刊誌記事の場合は、新聞記事のようにキーワード検索をかけても出てこないケースがあるので、100%ないとは言えないが)。
しかし、他に報道がまったく見つからないということからもわかるように、この読売の記事じたいが相当に怪しいシロモノだ。「政府関係者によると」というかたちで、なんの根拠もディテールも示さないまま「発見されたという」などと伝聞を書いているだけ。その迫撃砲が見つかった場所も、どういうタイプの迫撃砲だったのかも一切書いていない。これ、公安系のネタによくある典型的な飛ばし記事ではないのか。公安情報に詳しい前出の西岡氏も苦笑しながらこう話す。
「たしかに、一目でヨタ記事ってわかる感じの記事やね(笑)。まず、こんな公安情報を『捜査関係者』でなく『政府関係者』が話してるという時点で、信憑性が感じられない。みんな公安のことを誤解しているみたいだから言うとくけど、もし、北朝鮮の迫撃砲が見つかったりしたら、公安は絶対に隠したりせえへんよ。公安にとっては、捜査を広げる千載一遇のチャンスなんやから、総連にガサ入れするなり、絶対に事件化に向けて動き出す。とくに、兵庫県警の外事というのは、北朝鮮がらみの事件はすごく積極的で、“無理筋”の事件でも強引に事件化する傾向があるくらいやからね。迫撃砲を押収しただけでほっとくはずがない。
迫撃砲が見つかったのに当局が隠したとかいう人がいたら逆に聞きたいけど、それを何十年も隠し続けるメリットってなんなの? 公安はこんなおいしいネタをそのままにしておくほどお人好しじゃない。仮に事件化が無理なケースでも、マスコミには絶対にリークする。しかも、公安がリークするときは、記事にできるだけのディテールをちゃんと流すよ。瓦礫になっていてもその土地が誰の持ち物で誰が住んでいたかはわかるわけやから、所有者の情報は出してくるし、最低限、その迫撃砲がどこの国の製造なのか、型式はどういうものなのかも流す。今回、そういう情報が一切出てこない、読売がそういうディテールを一切書いていないというのは、そんな事実がなかったからとしか思えない。まあ、読み物連載やし、デマをふりまくのが大好きな政治家とかから噂話を聞いて、裏も取らずに適当に書いただけちゃうんかな」