倉本聰『昭和からの遺言』(双葉社)
昨年、大ヒットを記録した帯ドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日)。その続編となる作品『やすらぎの刻〜道』が来年4 月より放送されることが発表された。
『やすらぎの刻〜道』は、『やすらぎの郷』の主人公であった作家の菊村栄(石坂浩二)が書いたシナリオという設定で、昭和初期からはじまり、戦中、戦後、平成を生き抜く夫婦の生涯を描くものであるという。物語の前半は清野菜名が、後半は八千草薫が主演を務める予定となっている。
脚本を担当する倉本聰氏は〈昭和・戦中・戦後・平成、日本の豊饒への歴史を辿りながら、それに翻弄される一組の夫婦の“倖せ”への郷愁を探り、描くものである〉とコメントを出しているが、この物語を「戦中」から始めるのには確固たる意図があると思われる。
というのも、倉本氏は「サンデー毎日」(毎日新聞出版)2018年1月28日号のインタビューで、安倍首相についてこのように断じているからだ。
「真摯なんて言葉の意味をあの人は知らないんじゃないかしら」
言うまでもなく、これは「丁寧な説明」や「謙虚な姿勢で、真摯な政権運営に全力を尽くす」などと言っておきながら、強権的な姿勢は微塵も変わらず、森友・加計問題からも逃げ続ける安倍首相の態度のことを指している。さらに倉本氏は「国民はけっしてバカじゃないと思うんだけど、どうして安倍1強政治をこれだけ長持ちさせちゃうのか。原発問題、安保法制の問題といった重要議題を全部よそに置いて、景気、景気のアベノミクスに引っかかってるわけでしょ」とも語り、現在の日本が置かれている状況に危機感をつのらせる。
なぜ、倉本氏は安倍政権を批判するのか。そこには、1935年生まれで、先の戦争に関する記憶を鮮明にもっている世代だからこそ、安倍首相の姿勢が戦争を引き起こしかねないという思いがあるのだろう。倉本氏は同インタビューのなかで、「些細なことで戦争まで行っちゃうんですよ」とも語っている。
倉本氏は『やすらぎの郷』でも、作品のなかに自身の戦争体験を反映させることで、戦争の愚かさを伝えようとしていた。
たとえば、地元の暴走族にレイプされたハッピー(松岡茉優)の仇をとるため、高井秀次(藤竜也)らが不良のアジトに乗り込み、不良の股間を握りつぶしながら「覚えておきなさい、ケンカはね、戦争です。戦後生まれのあんたらは知らんだろうけども、戦争というのは、こういうもんです」と語るシーンがあったが、これは倉本氏の実体験をもとにしたうえで書かれたセリフである。