誰がどう見ても、暴力によって言論を封殺しようとする発想だろう。しかも、そもそも百田の言う「朝日新聞は『北朝鮮からミサイルが日本に落ちても、一発だけなら誤射かもしれない』と書いた」が事実ですらない。
おそらく百田は、朝日新聞2002年4月20日付の記事「「武力攻撃事態」って何」のことを言いたいのだろうが、これは当時の小泉政権による有事関連3法案に関し、「武力攻撃事態」の定義の曖昧性をQ&A方式で解説するものだ。そこには、計11の質問のひとつして〈Qミサイルが飛んできたら〉〈A武力攻撃事態ということになるだろうけど、1発だけなら、誤射かもしれない〉というやりとりが書かれているだけで、ようは政府が説明する「武力攻撃事態」において発射意図の有無や目的の判断は恣意的にならざるをえないという一般論にすぎない。また、見ての通り「北朝鮮」という国名も一切出てこないのである。
デマを吹聴しながら、言論に対して「半殺しにする」と予告する行為はファナティックとしか言いようがない。そして、何度でも繰り返すが、今回のツイートで百田がそうしたテロ煽動の切っ先を、朝日読者=一般市民にまで向けていることがはっきりした。言っておくが、たとえ本人は実行しなくとも、百田のツイートはすでに大量に拡散されている。感化されたネット右翼が朝日新聞関連施設を襲撃したり、朝日読者に暴力をふるう可能性は現実としてありうることだ。
ところが百田は、朝日からTwitterで抗議を受けても、発言を撤回せず、反省どころかこんなふうに開き直っている。
〈朝日新聞の広報さん、
私はたしかに朝日新聞と読者を敵視したようなツイートをしましたが、差別的な発言はしていません。
なんでもかんでも、すぐに「差別だ!」と、がなりたてるのはやめませんか。精神が弱者ビジネス丸出しですよ。〉(1月16日)
社会的弱者に対するむき出しの差別意識に反吐が出るが、いずれにせよ、今回の百田の発言が見逃されてしまっては、言論に対するテロや、特定のメディアの読者という属性に対するテロを許容することになる。
赤報隊事件の際は、朝日はもちろんのこと、新聞・テレビなど報道各社が一斉に“報道の自由と市民社会のため、表現によって断固として戦う”という趣旨を表明した。今回の百田の発言はスルーでいいのか。「どうせいつもの放言」として済ませてはならない。メディアも社会も、この問題をもっと真剣に考えるべきだ。
(宮島みつや)
最終更新:2018.01.20 07:03