社長の演説が5分くらい続いたところで、労働審判員が間に入り、ようやく次の質問がなされた。
「業績は悪くないというのはよくわかりました。じゃあ、なぜ会社は○○さんを解雇したのですか?」
そこで社長が自信に満ち溢れた顔で発した言葉、それは、
「私は社長ですよ!私がいらないと思う社員をクビにして何が悪いんですか!!!」
なぜか、太陽王と呼ばれたフランス国王ルイ14世の「朕は国家なり」という言葉が頭に浮かんだ。絶対君主制ってやつですね。って、あなた、国王じゃないし。
とにもかくにも、社長の迫力に圧倒されてポカーンとする労働審判員、社長の横でうなだれる会社の弁護士、社長の爆走に思わず笑ってしまいそうな我々。なかなかカオスな空間だった。
当たり前だが、整理解雇という会社側の主張は認められなかった。最終的には、女性労働者は会社を退職することを選択し、会社側は解決金として女性労働者に賃金○年分を支払うこととなった。社長にとっては高すぎる授業料だったのか、自信に満ち溢れた顔が一転、苦虫を噛み潰したような顔になっていたのが忘れられない。
確かに、会社の経営というのは並大抵の努力でできるものではない。社長の経営手腕や実績について評価すべきところもあるだろう。しかし、たとえ社長であっても、会社や従業員を全て自分の思いのままにしてよいわけではない。そのような誤解は、ブラック企業を生み出すだけである。
会社の経営者であり労働者の雇主という立場にある以上、労働基準法をはじめとする労働関連法令をきちんと遵守していただきたい。
【関連条文】
妊娠等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止 男女雇用機会均等法9条3項
解雇 労働契約法16条
(小野山 静/旬報法律事務所 http://junpo.org)
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■ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp
長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。
最終更新:2018.07.03 11:07