しかも日本政府は、事実婚のパートナーに難色を示したり、同性婚のパートナーは認めない一方で、一夫多妻制の国の要人が第二夫人を伴った際は配偶者として認めて行事や式典に同行しているという(前出「サンデー毎日」)。外務省は、一夫多妻は「日本国の伝統」だとでも言うのだろうか。ならば、同性愛も法律婚外の恋人関係も、日本では古くから歴史を彩ってきた「伝統」と言うべきだろう。
そもそも、宮中晩餐会の主催者たる当の天皇・皇后は、このような差別的な対応を是としているとは到底思えない。
というのも、竹下総務会長が問題視したオランド前大統領の事実婚パートナーだったヴァレリー・トリルベレール氏は、いかに美智子皇后が宮中晩餐会において偏見もなく接してくれたかを、自著のなかで明らかにしているからだ。
新潮社「フォーサイト」に掲載された西川恵・毎日新聞客員編集委員の記事によると、トリルベレール氏は2014年にオランドとの破局について綴った『Merci pour ce moment』(いまの時に有り難う)を発表。この本でトリルベレール氏は、事実婚でファーストレディとなったことや仕事を辞めなかったことなどで偏見の目で見られつづけた苦悩を明かすなかで、〈最も思い出に残る国賓訪問〉として、2013年の日本における宮中晩餐会を挙げているという。
そこで振り返られているのは、美智子皇后の対応だ。
「天皇、皇后両陛下主催の晩さん会は、いまでも忘れがたい、魂を奪われるような最高の記憶として残っている。北フランス出身の貧しい私のような小娘が、皇后から『ミチコと呼んでください。私もファーストネームで呼ばせていただいていいですか』と言われようとは。私は『皇后さまとお呼びするしか失礼でできません』と言いました。皇后さまは私の立場を理解してくださいました」
竹下総務会長の話から想像するに、トリルベレール氏の宮中晩餐会出席を周囲が快く思っておらず、扱いをめぐって揉めていたことは、美智子皇后にも伝わっていたことだろう。しかし、美智子皇后はそうした事情で分け隔てることなく、親しみを込めて接した──。すばらしい外交と言わざるを得ないだろう。
しかも、トリルベレール氏はこうも記しているという。
「別れ際、皇后はカメラの放列の中を優しく抱擁してくださいました。(皇后の体に触れないという)プロトコールを守らなかったため、私は批判を浴びるものと覚悟した。しかしこの時はなかった」