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『シン・ゴジラ』に対してなぜ園子温監督は「クズ」といったのか? 本質を隠す描写がリアルと評価される時代

 これに対して、ネット上では『シン・ゴジラ』と同じ長谷川博己を主演で撮った園の怪獣映画『ラブ&ピース』(2015年)が興収5300万円だったことをあげつらい、園が嫉妬のあまり「中2病を発症」させたかのような批判ツイートが殺到している。

 しかし、園の怒りの言葉は、そういう卑近な理由から出てきたものではないだろう。園が『シン・ゴジラ』と『君の名は。』に共通する東日本大震災の描き方に我慢ならなかったのは当然ともいえるのだ。

 周知のように『シン・ゴジラ』では、ゴジラは遺棄された原発の放射性廃棄物に順応して生まれた怪獣という設定であり、第二形態のゴジラが陸上してきたときに東日本大震災を想起させる大津波が日本に押し寄せる。

 しかし、それらはあくまで観客のリアルな記憶を喚起するための仕掛けにすぎず、東日本大震災と原発について何かを語っているように見えて、実は何も語ってはいない。

『君の名は。』も同様だ。ヒロインの宮水三葉が住む糸守町が彗星によって壊滅するという設定、隕石が落ちたクレーターに張り巡らされた「立ち入り禁止」のテープ、フェンスなど、観客に震災や福島原発を思い起こさせるディテールがあちこちに散りばめられているが、それはファンタジー的な予定調和の結末に回収されてしまう。

 一方、園監督といえば、震災や原発という問題を「安易な暗喩」にしたてることなく、真っ正面から向き合ってきた。『ヒミズ』(2012年1月公開)では、古谷実原作漫画の映画化だったはずが3.11を受けて大幅に脚本を変更。全く別の作品につくりあげた。さらに、『希望の国』(同年10月公開)では、長島県という架空の街を襲った地震と、その結果として発生した原発事故により翻弄される人々に焦点をあて、「震災」を映画という表現でどう扱うべきかという問題に真摯に向き合っていた。

 妊娠中に原発事故に遭遇したことでノイローゼになってしまい、宇宙飛行士のような防護服で街を歩き避難先の周囲の人間から白い目で見られる家族。行方不明になった恋人の両親を探すため瓦礫だらけの街へ入っていくカップル。認知症の妻と牛たちを抱えた状況で避難区域からの強制退去を命じられ、やむにやまれず妻や牛とともに心中する酪農家の男。『希望の国』では、実際に起きたこうした過酷な現実が生々しく描かれていた。

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