しかし、講談社がこうした声を真摯に受け止め、出版文化の担い手としての自覚を持ち、ヘイト本から手を引くかというと、残念ながら、今のままではそうはいかないだろう。それどころか、ケント氏の件で味をしめた講談社が、今後、ますますヘイト本ビジネスに邁進し、他の大手もこのヒットをみて続々と参入してくる可能性が高いと言わざるをえない。
実は、最近、『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』の担当編集者である間渕隆氏が、出版業界紙「新文化」のインタビューに答えているのだが、氏に言わせれば「ビジネスとしての出版はオセロみたいなもの」であり、「どんな本を出せば、どれぐらいの石をひっくり返せるかだいぶわかってきた」という。
また、これまで『住んでみたドイツ8勝2敗で日本の勝ち』(著・川口マーン惠美)などの“日本スゴイ本”も手がけてきた間渕氏によれば、〈普通の日本人の書き手がどれだけ「日本は外国に比べて優れている」と書いても「弱い」〉が、「欧米人と結婚した日本人であれば『日本はダメ』でも売れる」のだという。同じく、ケント氏のヘイト本が売れた理由についても、サラっとこう言ってのけている。
「ここまで伸びたのは、ケント・ギルバートさんというアメリカ人が『日本人と中国・韓国人は別物ですよ』と言ってくれたからだと思います。欧米人の書いた反中国・反韓国本だからこそ、特定の人たちだけでなく、多くの日本人に受け入れられたんでしょうね」
ようするに、本作りは徹頭徹尾マーケティングで、ケント氏の本も例外ではなく、“読者ニーズがあり、売れるとわかる”ならば、ヘイト本だろうがなんだろうが大いにアリらしいのだ。こういう編集者がしたり顔で〈ヒット作のノウハウ〉を語り、業界紙がそれを「“時代の空気読む感性”磨き続ける」なるタイトルを添えて嬉々として取り上げる。頭が痛くなってくるが、これが出版界の現状なのだろう。
もちろん、出版を法的に規制することは反対だ。しかし、差別やジェノサイドを扇動するような出版文化などあってはならないし、だからこそ、作り手や送り手は、その出版物の正体がいかなるものか、慎重に見極める必要があるはずだ。もっとも、講談社のような大手の編集者が、出版は「文化」ではなく「ビジネス」であると開き直っているようでは、もはや牛に対して琴を弾ず、なのか。出版に関わるすべての人たちに、このままでいいのか問いたい。
(宮島みつや)
最終更新:2017.10.28 08:50