言っておくが、性行為の事実とその際に山口氏が避妊具さえつけていなかったことは、山口氏自身も、詩織さんとのメールのやりとりのなかで否定していない。「敢えて触れない」のではなく“書けない”ということではないのか。実際、詩織さんは今月18日に出した著書『Black Box』(文藝春秋)のなかで、ホテルでのことをこう振り返っている。
〈目を覚ましたのは、激しい痛みを感じたためだった。薄いカーテンが引かれたベッドの上で、何か重いものにのしかかられていた。
頭はぼうっとしていたが、二日酔いのような重苦しい感覚はまったくなかった。下腹部に感じた裂けるような痛みと、目の前に飛び込んできた光景で、何をされているのかわかった。気づいた時のことは、思い出したくもない。目覚めたばかりの、記憶もなく現状認識もできない一瞬でさえ、ありえない、あってはならない相手だった〉
〈私の意識が戻ったことがわかり、「痛い、痛い」と何度も訴えているのに、彼は行為を止めようとしなかった。(中略)何度も言い続けていたら、「痛いの?」と言って動きを止めた。
しかし、体を離そうとはしなかった。体を動かそうとしても、のしかかられた状態で身動きが取れなかった。押しのけようと必死であったが、力では敵わなかった。
私が「トイレに行きたい」と言うと、山口氏はようやく体を起こした。その時、避妊具もつけていない陰茎が目に入った〉(『Black Box』より)
頭が真っ白になりながらも、その場から逃げようとする詩織さんを、再び山口氏は無理やりベッドに押さえつけたという。
〈抵抗できないほどの強い力で体と頭をベッドに押さえつけられ、再び犯されそうになった。(中略)
体と頭は押さえつけられ、覆い被さられていた状態だったため、息ができなくなり、窒息しそうになった私は、この瞬間、「殺される」と思った〉(『Black Box』より)
さらに、詩織さんによれば、さらに山口氏はこんなことを言ってきたという。
「早くワシントンに連れて行きたい。君は合格だよ」
「パンツぐらいお土産にさせてよ」
「今まで出来る女みたいだったのに、今は困った子どもみたいで可愛いいね」
比喩ではなく、吐き気を催す言動だ。詩織さんの主張を聞く限り、合意のないまま性行為に及んだことになる。
では、なぜ山口氏はこの核心部分について、手記で反論しなかったのか。それは、山口氏の主張に決定的な矛盾があるからこそ、言及を避けざるをえなかったのではないか。実際、山口氏が組み立てたストーリーは、詩織さんの主張だけでなく、第三者の証言とも明らかに食い違っているのである。