「SPA!」17年6月20日号(扶桑社)
本サイトでも再三再四取り上げているが、芸能人や文化人が少しでも安倍政権に対して批判的な言葉を世に出すだけで大炎上する傾向には歯止めがかかる気配がない。
だから、周知の通り、日本ではことさらに芸能人が社会的なトピックに踏み込んだ発言をタブー視する風潮があるのだが、それに対し松尾貴史氏は17年7月3日にウェブサイト「日刊ゲンダイDIGITAL」に掲載されたインタビューでこのように答えた。
「確かに、芸能人が思想信条を語るとネットサポーターやネトウヨが大挙して攻撃してきます。でも、芸人も俳優も歌手も、みんな税金を払って生活しているわけです。なぜ政治に対して意思表示してはならないのか。米国では、アーティストやアクターがエージェントを雇うスタイル。みな個人事業主なので自由に発言しています。一方、日本の芸能人は芸能事務所に雇用されているので、事務所に迷惑をかけないように穏便な表現を使う人が多い。社会性を重んじる文化もあり、周りに迷惑をかけたくないという美徳もあります。まあ、僕は行儀が悪いんですよ」
さらに松尾氏は、こういった流れがあるなかで、メディア、特にテレビが、政治や時事問題を扱ったバラエティー番組などを制作しなくなったと指摘していた。
「僕も含めてですが、いつの間にかテレビでは政治や時事問題のパロディーをやらなくなりましたよね。政治はニュースやワイドショーでしか扱わなくなった。ところが、そのワイドショーには、政権を擁護する提灯持ちが解説者と称して出演している。批評性がないくせに評論家のふりをして……って僕は思いますけどね」
この発言で思い出されるのは、脳科学者の茂木健一郎氏による「権力者に批判の目を向けることのできない日本のお笑い芸人はオワコン」論争だ。
茂木氏の発言には、ダウンタウンの松本人志や爆笑問題の太田光らが批判的なコメントを出す一方、オリエンタルラジオの中田敦彦が、茂木氏の意見にまともに取り合わず上から潰すような強権的な態度をとったダウンタウン松本に疑問を呈すなど大論争となったのは記憶に新しい。
そんななか、笑芸において政治ネタが必要な理由や、芸能人・文化人が社会的トピックについて発言する自由が担保されるべき理由について、劇作家・演出家の鴻上尚史氏がとても意味のある発言をしていた。鴻上氏は「SPA!」17年6月20日号(扶桑社)掲載の連載エッセイ「ドン・キホーテのピアス」のなかでこのように書いていた。
〈地上波では、現在、まったく政治ネタの笑いがありません。かつてはありました。昭和のずいぶん前、テレビがまだいい加減さを持っていた頃、毎日、時事ネタを笑いにしていました。
でも、今はありません。それは、お笑い芸人さんの責任ではありません。テレビが許さない。それだけの理由です〉