この議員が都議選でどんな応援を行っていたかを私は知らない。しかし私にかぎっていえば、都議選の前と渦中で、代表の「二重国籍問題」を問われたことは、いちどもなかった。
この問題が浮上してから、何人かの区議、都議に問うても「そんなことはまったくありませんでした」という答えが戻ってきた。もちろん日常活動のなかで「二重国籍問題」を聞かれた議員がいることは事実だ。しかし民進党の都議選敗北の「最大の障害」であるとする認識は、まったくの虚偽である。
報道ではこの会議で蓮舫代表が「戸籍抄本を提出する」とも報じられた。これに触発されたのだろう。複数の議員がツイッターで戸籍提出に賛同する意見を表明した。私は戸籍公開がプライバシー問題だけでなく、在日韓国・朝鮮人や被差別部落出身者が経験してきた差別の歴史からいって、絶対に受け入れてはならない重要な人権問題だとツイッターに書いた。蓮舫代表に個人情報の開示を求めるのは、出自による差別を禁止している憲法第14条(「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」)および、人種差別撤廃条約の趣旨に反する差別そのものである。
さらにいえば、いまも続く被差別部落出身者への差別では、社会問題として厳しく批判された「部落地名総鑑事件」(1975年)の教訓から、企業が採用選考のとき、応募者に戸籍の提出や本籍地の確認を求めることが禁止されるようになった。蓮舫代表に戸籍の開示を求めることは、こうした人権擁護の歴史に真っ向から反するものだ。
そもそも問題の出発点からしておかしい。蓮舫代表は日本人だからこそ公職選挙法に基づいて2004年の参議院選挙に立候補することができた。立候補を望むものは関係書類とともに戸籍謄本か抄本を提出する。そもそも戸籍は日本人が取得できるものだ。したがって蓮舫代表の「二重国籍問題」は、核心的には何ら指摘されるような問題などないのだ。ただ複雑な国際情勢のなかで、日本人にとってはなじみの薄い問題もあった。それが「二重国籍問題」である。
日本は昭和59(1984)年までは父系血統主義だった。父親が外国籍ならば、母親が日本籍であっても、子供は日本籍を取得することはできなかった。政府は男女差別撤廃条約を批准する必要から、国籍法を改正して、父親が外国籍であっても生れたときから子供が日本国籍を取得することができるようになった。国籍法と戸籍法を見ていただきたい。国籍法第14条2項には22歳までに「日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言」をすれば、日本国籍を取得できるのである。法務省から提出していただいた「国籍選択届」とそれが受理されたときの戸籍の見本を紹介しておく。