事実、テレビ・ラジオで多くのレギュラーをもついまでも、将来への不安は消えることがないと語っている。
「(売れなかった時期の感覚は)金ないとマジで病院も行けねえし、家賃も払えねえし、っていう感じ。それがなくなんないから、絶対お金使いたくないっすもん、いまも。もうすぐ稼げなくなる日が来るだろうなってずっと思ってるし」(17年6月20日放送『セブンルール』フジテレビ系)
彼がそこまで将来に対して不安をもつのに、(生来のネガティブ思考というのもあると思うが)芸能界、特に、お笑い芸人という、競争がひときわ苛烈な場所にいるからという要素は確実にある。14年9月14日放送『オードリーのオールナイトニッポン』では、オードリーの今後の見通しを語りながら、お笑い芸人として中年以降も第一線に立ち続けることの難しさと絶望をこのように語っている。
「よく考えたら60歳まで残る芸人なんて3人ぐらいだよ、俺らの世代から。(中略)40歳までは頑張って残んなきゃって目標はちょっと立つんだけど、45歳となると急に考えられなくなるし、ここから何人残るかっていうところだよなって『爆笑レッドカーペット』のときから言われてたけど、ここからごっそり40歳までしぼられて、45歳でもっとしぼられて。で、50代の芸人って、あげてみたら全然想像つかないのよ。(明石家)さんまさん、関根(勤)さんとか、あと、高田純次さんは還暦になったのか。50代で残ってて、なんてもうレジェンドじゃん。だからもうほとんど残んないですからいまの世代。(中略)どっかでいつか必ず風呂なしのアパートに戻るんだなって思ってんのよ。(中略)この仕事できたとして40歳。45歳まで残ってたら大したもんじゃん。いまから10年残れるなんてありえない」
いまの日本社会は、新自由主義的な価値観が世間に蔓延り、競争にふり落とされまいと長時間労働、成果至上主義、終わらない競争に自分を過剰適応させ身も心もボロボロになるまで競争させられ続ける。そして競争に負けた者は自己責任で切り捨てられる。弱者切り捨ての政策は年を追うごとにひどくなり、利潤を追い求める富める者の声はなぜか聞き入れられ、本当に助けを求めている貧しい者の声こそが国によって潰されるという、嘆かわしい傾向には歯止めがかからない。
そんな状況下でできる抵抗とは何か。前掲『社会人大学人見知り学部 卒業見込』のなかで若林は、過剰な競争社会のなかで当たり前のように信じられている価値基準について、こう疑義を呈している。